神授国騒動記
□7話
1ページ/40ページ
クレマテリスの王都には王城からそれほど離れていない場所にグラウデス神殿とよばれる場所があった。
ここは戦などで倒れた軍人、いわば殉死者達をまつった場所である。
とはいうものの、現在4大国の関係は先のクレマテリスによるアイリシアの国境の街襲撃の件を除けば比較的友好な関係にあり、またそれ以外の国々にいたっては4大国に攻め入る力などない。
その為先の件を除けば戦などなく、殉死者も近年であまり出ていないのが現実である。
それゆえか1年に1度執り行われる国王と軍による『英霊の儀』以外は実に閑散としたものだった。
守神クレマテリスへの祈りを捧げるのは同じ王都内だが反対の方向にあるヴォルカヌウス大神殿にて行うのが通常である為、どうしてもヴォルカヌウス大神殿に人が集中するためこれが原因の1つでもあった。
民は圧倒的にグラウデス神殿よりも、ヴォルカヌウス大神殿へと足を運ぶ方が多い。
だが珍しくもその逆をしている者がこの王都に1人いた。
彼は週の初めの朝、必ずグラウデス神殿へと足を運び、殉死者達をまつった石碑の前でこれまでの1週間にあった出来事を話し、そしてこれから先1週間の予定を告げる。
実際そこに誰かがいるわけではない。
少なくとも生きた人間はいない。
しかしそれでも彼は話さずにはいられなかった。
眠っているその場所での話事ならばあの世で聞いてくれているような気がして。
この歳になってまだ親離れできていないのかもしれないと、自分自身に呆れて苦笑を漏らした。
しかしそれでも止めることはできないのだ。
彼にとってあまりにもその人物は、父親の存在は偉大であったから。
「何時来ても静かだよな。ここは」
そう言って神殿の中を歩きながらぽつりとクロウは感想をもらした。
殉死者をまつった神殿が賑やか過ぎるのもどうかと思うが、ここまで閑散していては幾らなんでも殉死者達は報われないのではないだろうか、と。
そう思うのはきっと自分の父親もここにまつられている1人だからだ。
もっとも本来なら父親はここにまつられるような立場ではなかったのだが。
そう思ってまたクロウは苦笑をもらした。
「しかし、今日はまた・・・俺以外誰もいな」
クロウの独り言は途中で止まった。
彼が言いかけた言葉とは裏腹に、石碑の前に人影を見つけたからだ。
どうやら自分1人だと思ったのは早とちりだったようだ。
それと同時に自分以外の人間がいたことに少しだけ嬉しくなった。