神授国騒動記
□4話
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その日、1人の女性がクレマテリスの王城の正門の近くに現れていた。
肩口で切りそろえられた暗緑色の髪を風に遊ばせ、狐色の瞳はじっと強い決意の意思を伴って城の中を見つめている。
顔立ちは中々の美人で上品そうな雰囲気がある。
彼女は急遽人員の足りなくなった女官の補充としてこの城に来たのだ。
表向きは。
なぜならば彼女がここに来たのはこの城で女官をやるためではない。
もっと別の大切な事があるからである。
それを果たす為にわざわざ身分を偽り、こうして潜り込むことにしたのだ。
もっとも彼女にとってそんな事は全く苦ではない。
こんな事は今までに何度もあったし、潜入捜査は極めて得意分野である。
何よりもここに守るべき大切な対象がいるというのにどうしてそれが苦になるのか。
彼女にとっての苦になるのは、その大切な存在が何か危険な目や、辛い目に合っていないかということだ。
そして改めて決意を固めた彼女は正門へと近づいていく。
すると正門近くにいた門番らしき兵士はその姿にハッと気がついて彼女を呼び止める。
「止まれ。この城になんのようだ?」
ありきたりな問いかけに薬と微笑んだ彼女は、懐から何やら1枚の紙を取り出し兵士に手渡す。
「本日からこちらで住み込みで女官を務めることになった者です。証明書はここに」
「これは・・確かに」
渡された書類の内容に目を通すと兵士は近くにいたもう1人に声をかける。
するとその兵士も書類を確認した後城の中へと向かっていった。
「失礼しました。今、案内の者が来るので暫くこちらでお待ち下さい」
「そうさせていただきますわ」
にっこりと微笑む彼女の笑顔に思わずその兵士は見とれてしまう。
「あ・・・失礼ですが、その、お名前は・・・」
口にしておきながら兵士は言うのではなかったと思った。
これではまるで軟派みたいではないかと。
そう思って内心頭を抱えている兵士の心情を察してか察していないのか、彼女はくすりと笑って別段いやそうな顔もせず素直に己の名を名乗った。
「私は、アオイと申します」