神授国騒動記
□3話
1ページ/29ページ
「あの腹の子供は絶対にリオンの子なんかじゃない!」
宴の会場から離れた人のいない廊下でバックスはそうはっきりと怒りを露にして言ってみせた。
リオン、というのはデュカリオン国王を特に親しい者達が呼ぶ愛称だそうだ。
リクセントもバックス同様デュカリオン国王の幼馴染のため話の中でそう呼んでいた。
バックスもリクセントもデュカリオン国王と幼馴染ということは、必然的にこの2人も幼馴染という事である。
しかしこの2人、お互いにデュカリオン国王とは仲が良かったらしいが、当人同士は何故かとても仲が悪く、昔から険悪といっていい関係らしい。
会えば口喧嘩が絶えず(大概はバックスから仕掛ける)、同じ空間にいるだけで目と目で火花を飛ばし合う仲らしい。
まさに犬と猿の関係。
そんな2人であるから、互いに意見などめったに合ったことはない。
意見が合うなど奇跡に近い。
しかし今回に限ってはどうやらその珍しい奇跡が起ったようで。
2人はきっぱりと同じ意見を言ってのけた。
ラエンナ妃の腹の子供はデュカリオン国王の子供などではないと。
デュカリオン国王の子供はシェル以外にはありえないと。
何故か2人はそう絶対的な確信を持ってはっきりとそう告げていた。
2人が何故そこまで確信を持てたのかは解らない。
しかし今考えるべきことはそこではなかった。
ラエンナ妃の腹の子供がデュカリオン国王の子供でなければいったい誰の子なのか。
そして本当にデュカリオン国王の子供でなければ、それはラエンナ妃が嘘をついたということ。
普通の嘘であればまだ情状酌量の余地はあるだろうが、ことは王位継承にかかわる大問題。
何よりも王の側室が他者の子供を身篭ったとあれば、それは国王に対する裏切り行為であり、ひいては国家に対する裏切り行為。
例え王の側室といえども赦されざる大罪である。
否、国家の主の妻であるからこそ赦されることはないだろう。
最悪極刑に処されてもおかしくはない。
それ程のリスクのある行為であることをあのラエンナ妃には理解できているのだろうか。
そしてそれほどのリスクを犯してまでラエンナ妃に子を身篭らせた相手はいったい何者なのだろうか。