神授国騒動記
□2話
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そこは別称・剣武の神とも呼ばれることもある火神クレマチスに守られた南の大国・クレマテリス。
四大国の中でも軍事力は最大に位置し、火山が多く点在する火の国。
しかし熱帯というわけでもなく、比較的気候は良い方だが、南国だけありアイリシアよりは暑いといえる。
その国の首都・エンプレスにマナは旅を経て初めて足を踏み入れていた。
「大丈夫か?マナ」
「はい・・・ご心配かけて申し訳ありません」
シェルの言葉ににっこりと微笑んで安心させようとしたマナだが、そこには明らかに疲労の色が浮かんでいた。
「まあ、無理もないかもな。なれない長旅の上、気候もアイリシアに比べてこの国は熱いから」
そう言ってバックスはマナに水の入ったコップを渡した。
「ありがとうございます・・・」
それを素直に受け取ってマナは一口だけ口に含み飲み込んだ。
「もうすぐ城だから。それまで頑張ってくれ」
「あ、なるべく顔は隠して置けよ。姫さん。城につけば、まあ・・・どうにかなると思うから」
「はい」
シェルの真剣な言葉と、どこか濁すようなクロウの言葉にもマナは全幅の信頼を寄せて返事を返した。
「しっかし、帰るのは良いけど・・・またあいつらと顔を合わせるのだけはな・・・」
心底嫌そうな表情をしながらそういったバックスに向かい、シェルは呆れたように声をかけた。
「バックス。お前それ誰をさしてそう言ってるんだ?」
「さあな〜〜」
しかしシェルの言葉に視線を逸らし、口笛まで吹いてとぼけてみせるバックスに最早シェルは溜息しか出てこなかった。
「あ、あの・・・」
その様子を少し戸惑うように見ていたマナの小さな声に気づいたシェルは、苦笑を浮かべて抱えているであろう疑問を察した。
「まあ、色々あってな・・・」
「はあ・・・」
答えになっていない言葉を返され首を傾げたマナだったが、それ以上追求する事はしなかった。
きっと何か深い事情があるのだろうとまたある意味天然な思い違いをして。
そんなやり取りをする中、ついに城へと到着した。