葬送歌人
□14:鬼ごっこ
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ぐったりとソファに埋もれる身体。
原因は解りすぎる程解っているし、元凶は上機嫌ですぐ傍にいる。
まあ、つまり先程のソファに埋もれる、という表現は正しくはない。
正確には元凶のごと埋もれているわけだ。
ようはエレシュは現在ソファに座ったディエスの膝の上に座らされている状態なのだ。
しかも他の人間の目の前でだ。
ちらちらとこちらを何故か羨望の眼差してみているゲーテ。
完全に同情のこもった視線でみているシヴァ。
どちらがマシかと問われれば、見られている時点でどちらもどちらだった。
二人が一度も声をかけて来ないのもゲーテは気を使って、シヴァはディエスが恐ろしいからという全く違う理由であるという事もつけ足しておこう。
できれば今現在扉の方を向いているイヴのように全く無視していてくれた方が気がらしくだ。
イヴはイヴで違う事が気にかかっているに違いないのだが。
「ううっ。お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん」
その証拠はその言葉だけで十分だ。
未だこの場に現れていないリリス、とアダム。
何故現れていないのかなど簡単な話だ。
おそらく自分と同じ理由だろうとエレシュは力なく乾いた笑いを漏らしていた。
「あーあ。あいつらがこんなに遅いならもっとやってれば良かったな」
何を、とは聞くまでもない。
そしてそれを自分に同意を求めるなと目の前の主君に言ってやりたいがその気力さえ今のエレシュにはなかった。
そもそもリリスとアダムが遅かろうが早かろうが、あの二人の意思や行動でディエスが左右されるような事はない。
こうして今ここにいるのだって、もう無理だとエレシュが必死に懇願したからだ。
それでも渋々でしか諦めなかった辺りがディエスだ。
諦めてくれただけマシなのでその事については何も言わない。
しかし疲れ果てた後寝て起きてまたすぐに、と言うのはいい加減どうにかしてもらえないだろうか。
否、それが別に本当に嫌なわけではと、一人で何やら内心考え始めていると漸く件の二人が現れた。
「お姉ちゃん!」
ぱああっと明るい声で姉を呼んで嬉しそうにパタパタと駆け寄って行く。
今のイヴは大好きな姉の姿しか映っておらず、姉に向かって一直線。
リリスの今の状態などあまり気にしている様子はない。
「あ、イヴ・・・おはよう」
どんな状況でも可愛い妹にきちんと声をかけるリリスを少しは見直すべきだろうか。
エレシュと同じようにぐったりとした様子のリリスの声が少しだけかすれたように思えるのも気のせいではない。
アダムの腕に姫抱きで抱かれて現れたその姿は、つい数十分前のエレシュの姿と同じ姿で、珍しくエレシュはリリスに対して同情心を抱いたのだった。