葬送歌人
□7:旅は道連れ(後編)
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その日の早朝・・・
シヴァは何か嫌な予感がしてエレシュの部屋を訪れていた。
そこで彼は見たものに一瞬固まったものの、すぐさま現状を理解してすぐさま行動に移っていた。
床に正座で座り込み、思いっきり床に頭をこすりつけ、誠心誠意こめて一心不乱にその人物に・・・・・・
土下座をしていた。
そのシヴァの様子にその人物、ディエスは無表情でシヴァを見ていた。
その無表情さが逆にシヴァにはとても恐ろしかった。
そしてちらりと視線を上げてみてみれば、この部屋の借主であるエレシュは、ディエスの膝の上に横抱きに座らせられ、その頬や顎、首筋のあたりをディエスの手で撫で擦られていた。
こちらからそのディエスの首に腕を廻して彼に抱きついている体勢のため、その詳しい表情はうかがうことはできない。
しかし僅かに見える頬は朱に染まっており、時々小さな甘い声をもらしたり、ディエスの撫で擦る手にぴくりと反応をしめしている。
おまけにその首には見慣れぬ首輪がされており、その隙間から覗く彼の肌についた赤い痣に何があったのか悟ったシヴァは内心「うわぁ・・・と声を上げていた。
だが一瞬だけ間がさした呑気な考えも、すぐさま消えうせる事になった。
どすんっといきなり、それまで上手く隠していたのであろう恐怖でしかない殺気と怒気の入り混じった感覚がシヴァを突き刺した。
そしてこれを誰が放つものかと尋ねるのは愚問というものである。
こんなものを放つ相手は1人しか該当しない。
土下座をしたままの体勢で固まったままがたがたと震えだしたシヴァにディエスの言葉が重く暗くのしかかる。
「・・・役立たず」
最初に短く言われたその言葉にシヴァは大きくびくりと反応した。
「俺を差し置いてレスと2人きりだっていうだけでも赦しがたいのに。レスが俺の許可もなく歌わないといけない状況になったのはどういうことだ?」
それを聞いてシヴァは先日の件が完全にディエスにバレているのだと悟り、その怒りの矛先が自分へも向けられたことに絶望的な感覚に襲われる。
「近衛隊士長のお前が一緒にいながら、俺のレスが俺の許可もなく歌わなければならないほど危険な状況に陥ったというのはどういうことだ?」
再度問われても恐怖に染まったシヴァには何も答えることなどできなかった。
否、答えたところで命運は変わらないという事も解っている。
何時もならエレシュが助けてくれるが、今の虜状態の彼ではそんなものは期待できなかった。
「なあ、シヴァリンク・・・」
静かに己の正式な名前を口に出されただけだったが、彼はその瞬間本能的に悟った。
消される・・・と・・・・・・