葬送歌人
□5:旅は道連れ(前編)
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ある日、それは魂陵界に何の前触れもなく訪れた。
執務室で今日も今日とて嫌がる主君を説教しつつ、むりやり仕事をさせていたエレシュは、不意にその主君の僅かな変化を感じ取って声をかけた。
「陛下。どうかされましたか?」
「ん・・いや、なんか今入り込んだような・・」
「入り込んだ・・・?」
ディエスの声にエレシュが眉を顰めて鸚鵡返しに問い返した時、そとからばたばたというおおげさのような足音が聞こえ、次いで勢い欲開かれた扉から誰かが入ってきた。
「た、たたたた、た、大変です!!」
やけに焦ったように入ってきたその人物は、シヴァと服装が似通っている事から近衛隊士だということが解った。
その顔は少々青褪めており、何か悪いものでも見てきたようだ。
「おい、どうしたんだよ?」
案の定やはりシヴァの知っている人物だったのか、心配そうに彼が声をかけると、その慌てて入ってきたその人物は、近衛隊士らしくもなく、少々涙目になりながら必死の様子で話し出す。
「た、隊長!お、俺・・俺たちどうしたら良いのか・・・」
「落ち着けって・・・陛下の前だぞ」
そう言ってシヴァはちらりとディエスの方を見たが、ディエス本人は気にした様子もなく、というかこちらのことはどうでもよさそうで、エレシュにまたちょっかいを出して怒られている最中だった。
なんとなく溜息をついて苦笑を浮かべて目の前の部下に先を促した。
「で、なにがどうしたって・・・」
「・・・嵐です。嵐がやってきました!」
「嵐・・・?」
それだけでは解らなかったが、なんとなく嫌な予感はし始めた。
「あ、あああ、あのお方がお越しになられましたぁ!!」
そしてその言葉を聞いた時、その場に居たゲーテ以外の全員がその意味を悟った。
そしてどうでもよさそうだったディエスも瞬時にこちらに注目し、エレシュも緊張感のある表情を浮かべて視線を向けていた。
「あのお方だと・・・まさか・・・」
「やっほーー!飛び出ましてこんにちはぁ」
エレシュがその名を口にするよりも早く、明るい声と共にその人物が姿を現していた。