葬送歌人
□4:女難の相
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その日の朝、目を覚ましたエレシュはいつもなら先に起きていようと自分を抱きこんで寝顔眺めるなり、余計なちょっかいをかけてくるディエスが何故かいない事にすぐさま気づいた。
普段行為の最中以外は悪態をついていたとしても、そこはやはり最愛の恋人という事なのだろう。
いるはずのその人物がいない事に、僅かに眉をしかめて少し不安になってしまった。
しかしそれも次にエレシュがぼんやりと目にしたものによって消え去る事になった。
まず視界に飛び込んできたのは自分の秘色の髪だった。
自分の髪なのだから当然毎日見慣れている。
何も珍しいことはない。
しかし明らかにいつもと違い違和感がある。
その違和感にもすぐにエレシュは気づいてそれまでぼんやりとしていた目をはっきりと大きく見開いた。
違和感の正体は髪の長さだった。
通常肩にもつかない程度も短い自分の髪は、腰ほどの長さを持ってベッドの上にさらりと散らばっていた。
そこでようやく異変をはっきりと認識したエレシュは、上半身を勢いよく起き上がらせると、目線は目の前に向けたそのままに、おそるおそる自分の胸の辺りを触ってみた。
そしてそのいつもならありえない、否あってはならない通常の自分のものではないはずの柔らかい感触を感じ、その感触に顔を引き攣らせながらもそれをここでは視界によって確認はせず、急いでベッドを這い出て部屋に置かれている姿見の大きな鏡の前に行った。
そして目の前で映し出された光景にエレシュは愕然とした。
腰まで流れる長い秘色の髪、豊満な胸。
それでなくても通常時から長い睫はますますその長さを増しているように見えて、唇も瑞々しく紅く、腰も肩もいつもより細くなっている。
しかもご丁寧に起こさないように着替えさせたのか、服は寝着ではなく黒いゴスロリ風のミニスカート。
おまけにガーターベルト、ストッキング付という美女、基女の姿になったエレシュ自身の姿が映し出されていたのだ。
そんな自分の現状をしっかりと理解したエレシュは、顔を引き攣らせ、身体を震わせながら盛大に怒声をもってその元凶となった人物の名を呼んだ。
「陛下ーーーーーーー!!!」