葬送歌人
□2:夜の話
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エレシュには自分の部屋というものが存在しない。
対して他の死神達は全員『城』内に個別に部屋を持っている。
どんな新入りの下っ端の死神でも必ず個人の部屋は与えられるのがこの魂陵界では当然なのだ。
にもかかわらず、何故死神達の最高位である最高死裁長であるエレシュにだけ個人の部屋が無いのかというと答えは単純明確である。
エレシュの部屋すなわち、ディエスの寝室。
ディエスの寝室がエレシュにとっての個人的な居住空間である為、エレシュ個人の部屋というのは存在しないのだ。
これは死神達の間では暗黙の了解であるし、例え他に個人的な部屋を持とうとしても即時ディエスが全力で却下する。
そもそもエレシュ自身が現状に満足しているというか、他に個人的な部屋を持とうという気が全く無い為なのだ。
基本的にはそのディエスの寝室というのは、部屋の主であるディエスとその同居人といえるエレシュの2人以外立ち入りは禁止されている。
ゲーテが時にお茶などを持ってきたりすることもあるが、それはあくまでも寝室の扉の手前までであり、中に入ることは決してない。
立ち入り禁止の理由は色々あるものの、1番の理由としてはディエスがエレシュと自分だけの空間に他人が入ってくるのを極端に嫌う為である。
以前は近づく事さえも嫌っていたほどであるから、最近はまだましになってきたといえる。
そして何故そこまで嫌うのかも、2人が主に寝室で何をしているのかも、多くの死神達にとっては暗黙の了解である。
中にはゲーテのように「仲が良いから」と純粋に思っている者もいるが、それはかなり貴重な存在である。
とにかく、このディエスの寝室は立ち入り禁止はもとより、そう頻繁に近づく者もいないため、連行されたエレシュにとっては、逃げも助けも一切存在しない、陸の孤島という言葉が頭に浮かぶような場所には違いは無かった。