天文観測
□obs.3
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目の前にあるのは魔窟への入口。
多くの人間がその建物を目の前にして思った事だ。
ついにやってきた、やってきてしまった春初学園との第二回交流会会議。
開催場所は前回の話で決めた通り翔の自宅だ。
普通の人間が見れば一見何の変哲もない家、とはさすが西条グループ会長の孫が住んでいるだけあって一般家庭よりも随分と立派、だと疑いもせず思うだろう。
しかしこの家に住んでいる人間の事を知っている者にとってはそれだけでは済まない。
知らなければ良い事が世の中にはある、という言葉がまさにあてはまるだろう。
更に今日はそれが増加されてしまうのだから、これからここにのり込まなければならない宙良達は気が重かった。
「は〜〜。帰りたい・・・」
「無茶言うな。もう来てしまったものは仕方ないだろう」
「まあ、一人だけ超ノリノリの人がいるしねー」
そんな翡翠の声につられて全員の視線がその人物へと突き刺さる。
「ほら、お前らなにぐずぐずしてるんだ!さっさといくぞ!とっとと行くぞ!行かないなら俺だけで先に行くからな!!」
急かすようにそう言う犬飼は物凄い笑顔で瞳は輝きテンションはとても高い。
とてつもないくらいの上機嫌だ。
彼がこの日をどれだけ待ち望んできたのかが良く解る。
しかし彼の気持ちに賛同はしたくなかった。
「・・・そんなに会えるのが嬉しいのかな」
「嬉しいんだろうな」
「未だにあれだけは理解不能だ」
結局、宙良が海築に情報提供してから今日までも直緒は情報を探り出そうと奮闘していたらしい。
だがやはり一切の情報を掴む事は出来なかったので犬飼の一樹に対するあの態度も謎のままだ。
「ま、今回で何か解るだろ
「解ってからじゃ、遅い気がする・・・」
温志のその言葉に同意して乾いた笑いを零したのは一体何人いただろうか。
「とりあえず腹をくくるぞ」
「そうだな・・・」
「ここまで来たものは仕方ないよな・・・」
全員でそう言い励まし合うが、門をくぐってから玄関に辿り着くまでの足取りがとても重い。
一人だけ軽いのは言わずもがな犬飼だ。
これから一体どんな事が起こるのか想像もできないが、とりあえずせめて昇は絶対にいて欲しいと子の日に置いて彼の重要性を知る『Astronomic』一同は心の底から願っていた。