献上品・宝物品
□花酔甘味
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差し出されたそれを見た瞬間にエレシュの顔は僅かに引き攣った。
「あの・・陛下。これを俺に着ろと・・・」
「もちろん」
やけに上機嫌に答えられてエレシュは思わず溜息が零れた。
「ご褒美、だろ」
にっこりとどう考えても裏のある笑顔だが、そう言われてしまえばエレシュには最早何も言い返せなかった。
それは数十分前に遡る・・・・・
珍しく今日はやけに早すぎるほど早く仕事を終わらせたディエス。
喜びの反面、何か絶対企んでいると、長年の経験からエレシュは感じ、その予感はしっかりと当たった。
早く終わらせたのだから見返りを要求する。
ご褒美が欲しい、と・・・
本来仕事をきちんとやる事は当然の義務である。
しかもディエスが本気を出せば何時も早く終わる事など当然。
にもかかわらず普段仕事が嫌だとサボりまくった結果溜め続けているから何時も、何時もああいう事態に陥る。
それを棚に上げて珍しく早く終らせたから見返りを要求するのは何か違うはずである。
無論エレシュもそれは良く解っているし、ディエスが今回やった事は特別な事でなく当然の事だとも思っている。
しかしこれも長年の付き合いでこの主君にそんな理屈が通用するはずもないことはエレシュが誰よりも良く解っている。
こちらがなんと言おうと、ああだこうだと文句を言ってくるのは決まりきっている。
最終的には次の仕事に支障が出るような事態に陥りかねない。
今日の分を幾ら早く終らせたとしても、明日には明日の仕事が待っているのは当然のことなのだ。
その為ここでディエスの機嫌を損ねて明日の仕事に支障を出すわけにはいかない。
ディエスの要求がろくでもない事なのは容易に予想はできる。
それも確実に自分が関わるだろうことも。
しかしエレシュには選択肢などなかった。
自分の身と仕事とではどう考えても仕事の方が優先される。
もっともある意味ではその仕事を無事遂行させる事は自分自身の為ではあるのだが。
そしてエレシュはディエスの要求を大人しく聞き入れる事にしたのだ。