葬送歌人


□14:鬼ごっこ
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「お姉ちゃん大丈夫?」

近づいて姉の様子に漸く気がついたらしいイヴは、可愛く首を倒して心配そうに尋ねた。

「大丈夫よ、イヴ・・・」

妹専用の優しい微笑みを浮かべながら頭を撫でてやる。

そのリリスが少しだけ乾いた笑顔を垣間見せたのは気のせいだろうか。

否、気のせいではない。

そしてそれを向けられる対象は、独占欲丸出しで一応表向きの正妻を睨んでいた。

「イヴ、離れろ。リリスは疲れているんだ」

「あははっ・・・誰のせいかしら、って・・・すいません、なんでもないです」

アダムの発言に今度はあからさまな乾いた笑いを漏らしながら反論したリリスだが、すぐさま頭上の夫からの威圧感に敗北した。

普段傍若無人なリリスが旦那と妹にはこれだ。

特にアダムに対してはほぼ完全に下手のように思得るのは気のせいではないだろう。

「離れるのはアッくんのほうでしょー!お姉ちゃんずっと一人占めしてずっるい、ずるい!」

「俺の妻なのだから当然だろう」

「イヴのお姉ちゃんだもん!!」

言い合って視線で火花を散らし合う、一応表向き夫婦。

何処かで見たやりとりだなと、まあぶっちゃけ昨日見たばかりのやりとりだなと、半眼になったのは二名だ。

つまりはエレシュとシヴァだ。

漫才じみた争奪戦、しかも争奪の対象がリリスというある意味あり得ないやりとりを何度も見れば無理もない。

この場ではおそらくこれが一番正しい反応だろう。

ただし純粋なゲーテはただ心配そうに二人の喧嘩を見守っている。

しかしリリス争奪戦を無視しているというか、最初から一切目や耳にいれずに始終エレシュを構い続けているだけのディエスよりは間違いなくまともな反応か。

否、ある意味ディエスにとってはこれがまともな状態と言える。

その光景を恨めしそうに見つめているリリスの瞳に何かがきらりと光ったのは気のせいではないだろうか。

気のせいだと思いたい。

「あのー、リリスにアッちゃん・・・」

「なーに?お姉ちゃん」

「・・・なんだ?リリス」

リリスに名前を呼ばれてすぐさま嬉しそうに返事を返すイヴと、少しだけ返事を遅らせたアダム。

おそらく自分よりもイヴの方が先に呼ばれた事が不満なのだろう。

普段はまともというか、十分尊敬できる人柄なのに、何故こうもリリスが絡むと残念というか、面倒くさくなるのだろうか。

そしてその事に気がつきつつも、己の平穏の為にあえて気づかないふりをしておくリリス。

「ええっとね。ちょっと面白い事して遊ばない」

「面白い事?なに?!」

「鬼ごっことかどーお〜〜?」

イヴの質問に対して返ってきた答え。

しかしその答えを告げた声は、明らかにリリスにモノとは違っていた。
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