葬送歌人
□14:鬼ごっこ
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黒を基調とした服装が死髪の標準装備だ。
深い理由など特にあるわけでもない。
彼らの主君であるディエスが漆黒の髪で、基本黒い服装だからそれにならって、という何とも単純な理由からだ。
だから黒色なんて普段から物凄く見慣れているわけで。
ある意味一番身近にある色なわけなのだが。
今、目の前に現れた黒色とだけは出来ればお近づきになりたくなかったと思う。
できる事ならこれから先はもう勘弁してほしいと思うが。
「ひっさしぶりー!お待ちかねの麗ちゃん登場でーす」
おそらく無理なのだろうと、一目散に逃げっ出したくなる腹の立つ笑顔を前に思った。
「あっ、うーちゃん久しぶり」
「お久しぶりです」
何の疑いもなく挨拶を返したのは純粋培養なイヴとゲーテだけだった。
「・・・腰が」
反射的に逃げようと動いたエレシュは酷使しまくった腰を痛めたようだ。
周りの全てを無視しているディエスは痛めたエレシュの腰を撫でてやっている。
「何をしに来た?」
「っていうか。鬼ごっこって・・・?」
固まっているシヴァはさておき、一番まともな反応をしたのはアダムとリリスの夫婦だった。
「遊びに来たのよ。そしてリリスはとぼけちゃって〜」
律義と言って良いのか、きっちりと二人共に返答をしている。
その声と表情が物凄く、物凄く楽しそうなのは気のせいだろうか。
寧ろ気のせいだと思いたい。
これから何が起こるかなど、考えたくもない。
「エレシュ達を使って憂さ晴らししようと思ってたくせにねぇ」
麗のその言葉に顔を引き攣らせたエレシュとシヴァの視線がリリスに集中した。
しかしそのリリスの顔も引き攣っている。
上から降り注ぐ威圧感が原因だ。
「リリス・・・何に対する憂さ晴らしだ・・・?」
「ひぃっ!いや、ちがっ・・・ていうか、麗の言葉を鵜呑みにしないでよ!」
「ああ。安心確実な知由情報だから」
親指付きたてる麗に、「確実はともかく何処が安全だ」と過去の被害者達は心の中でツッコんでいた。
「らしいが・・・」
「ううっ・・・だって、だって!アッちゃん相変わらずしつこくて、やりすぎなんだもん!」
更に増した威圧感に何やら混乱したリリスが物凄い事を叫んだ気がする。
そして理解した事が一つある。
以前麗の事をリリスと同種で厄介な存在だと思ったが、それはある意味間違いだった。
今のこのやりとりでリリスよりも麗の方が余程厄介な存在だという事が解った。
その証拠に、今回はあのリリスまでもが被害者の方にまわりそうな予感だ。