葬送歌人


□4:女難の相
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「それもそうで」

ゲーテがシヴァの言葉に納得して返事を返そうとした時、バンっと勢いよく開かれる扉の音によってそれは中断させられた。

音のした方向は一般の死神が使用する通常の正式なこの部屋の入り口とは正反対の方向。

つまりディエスの座る机の後方に位置する彼の寝室に繋がる唯一の通路と通じている扉である。

そしてディエスが今この場にいる以上、そこから出てくる人物は1人しかいない。

その人物はわざとらしく大きな足音を立てながら段々とこちらに近づいてくる。

その姿は何故かいつも前を開けている上掛けのロングコートの閉じて中に来ている服を見せないようにしているような格好だった。

ついでに言うとそのロングコートが覆っている胸の部分にはいつもはないはずの膨らみがあり、しかも髪は腰までの長さがある。

それを見た瞬間、シヴァとゲーテは彼の身に起こった事を察した。

「・・・エレシュ。お前また」

そうぽつりとシヴァが漏らした言葉に、エレシュが鋭い眼光を彼に向けた。

思わず後ずさりしてしまったシヴァは、それでも親友の哀れな状態に同情していた。

エレシュは通常男性の魂欠のみで構成されているはずの死神の中で、稀に存在する女性の魂欠が混じった所謂『如混』の1人である。

『如魂』は女性の魂欠を宿すが故に、通常は男であるにもかかわらず、とある人物の意思1つで女性の姿にもなることがある。

そのとある人物はいうのは他ならない目の前にいる主君であるディエスなのだが。

ディエスは『如混』は死神の中に数人いるにもかかわらず、女の姿にするのはエレシュばかりである。

その理由として「エレシュ以外の奴の姿がどうだろうと興味ない」という、どこまでもエレシュ以外はどうでもいいという考えからなのである。

またエレシュを女の姿にするたび、やけに着飾りたがるのもディエスのいつもの癖である。

別に女の姿の方が良いとかそういうことではないのだが、たまにはそういう趣向も良いという考えなのである。

そして反対にエレシュはというと、本来なら男であるはずのプライドにかなり傷を付けられる為か、この女の姿になるのがとてつもなく大嫌いであった。
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