大切なもの。第一章
□意思持ちて人と遂に並べられり
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磯上の去った次の日。
今日の正午に磯上は悠を迎えに来る。
やっと悠と本当に仲良くなれた気がしたのに、こうもあっけなく崩されるものなのか。
きっと悠は俺を都へは連れていけない。
いや、連れてってくれないんだ。
悠を閉じ込める檻でしかないところで、連れていってもらったとして、俺はきっと全ての自由が奪われるだろうな。
見つかれば俺は殺されてしまうかもしれない。
そう考えたら、今別れることが正しいのかもしれない。
でも、それでも俺は悠と一緒にいたかった。
そして、伝えられないまま別れの時が訪れる。
『大ガマ…。
今回ばかりは連れていけないわ……。
ただ、不幸になるだけだもの…
これで一生のお別れよ…
今まで…ありがとうね。
さようなら…
私の分も…自由に生きてね!!!』
俺は精一杯悠を呼び止めた。
でも今回ばかりは振り返ることはなかった。
いやだ、いやだ…
悠はきっと二度と会わないつもりなんだ。
ズキッと心が軋んだ音がした。
悠は真っ直ぐ山を駆け下りていく。
あんなに幸せな瞬間が、瞬きをする間もなく消え失せてしまった。
ズキッ…
あぁ悠を見るとまた心が軋む。
この気持ちの意味を…俺は知っている。
でも抱いてはいけないものだ。
人間である悠に蛙の俺が抱いてはいけないものだ。
ふと悠の言葉が頭に浮かんだ。
“私の分も…自由に生きてね”
そうだ、悠は自由に生きろと言った。
ならば、俺は俺の勝手で悠に会いに行けばいい。
都の方角は一度教えてもらった事がある。
何月かかっても…何年かかってでも俺は悠に会いたい。
そう思った俺は都へと進み出した。
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