大切なもの。第一章

□考える時間などない
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やっと心を通わせた1人と一匹。





村へと帰る道、村人達がざわめいているのが聞こえた。




村に帰るとこの村を治めているらしい都の中納言、磯上という偉いやつ?が来ていた。


すると悠の姿に気がついた悠の母親がすごい剣幕で悠の腕を引っつかみ、家へと引きずり込んだ。

その時、悠はさっと俺を着物の中に隠した。



『母さま…!!痛いっ…何ですか…?』

母「家は貧乏だ」

『わかっていますが…』



話を続けようとした母親に父親が割り込むのが聞こえた。



父「珠日。」

母「はい、あなた」

父「俺が話す」



そういって悠の両親は二人揃って座り、悠にも座るように言った。
何が何だかわからず、悠は座ったのはわかった。


父「磯上様が来ていることは知っているな?」

『はい』

父「その磯上様が、お前を伴侶にしたいと言って下さったのだ」




その言葉の衝撃は俺にも伝わった。
何故だ、さっきやっと俺達は本当に近づけた気がしたのに。



『そ、れは…』



震える声で言葉を発する悠。



母「丁度いいでしょう?行き遅れたお前は結婚もできる、口減らしにもなるし私達にはお金を頂けるの。」



いやだとは言わせないわ。



そう悠の母親はぴしゃりと言い放った。

なんて母親だ、自分の娘にここまで言えるものなのか。
悠なんて単なる道具でしかないというのか…!



『…少しだけ……時間を下さい…』

父「構わんが…逃げるような真似はするなよ」

母「弟達の為だと思って、結婚してちょうだいな」




悠が嫁に行けば、二度と会えなくなるのではないかと、俺の頭の中は真っ白だった。





悠は裏山でぼんやりと考えている。
やがてぽろぽろと涙が零れた。


『大ガマ…私っ…結婚なんて嫌だ…嫌なのに…っ!逃げられないっ……!!!』



うわぁぁあああんと悠は俺を抱き締めて泣いた。

何も出来ない俺は、またただそばに居るだけしか出来なかった。
何故だ…何故だ…!!!!
俺は何の為に悠と一緒にいる…!!?
手を伸ばしても涙へも届かない。
そばにいると言うことも出来ない…。
ただ黙っているだけなんて…!!

俺はただ自分の無力さに絶望していた。




悠の家に帰ると、そこには磯上がいた。




磯上「おお、悠……!
私の思った通りだ、そなたは本当に美しい…。では、盛彦よ」



やめろ…お前なんかが悠に近づくな…!!
そう叫んでやりたかった。



父「はい」

磯上「明日の正午、迎えに来る。
褒美の金はその時に渡すぞ」

父「ありがとうございます、磯上様」



悠の意思など、全くない会話。
ただ静かに聞いている悠には生気が抜けて、もはや何も聞こえないようで。
あぁ俺が人の子だったならと、そう思わずにはいられなかった。




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