大切なもの。第一章
□生きろ
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磯上の去った次の日。
今日の正午に磯上は私を迎えに来る。
どうして…
どうして、
どうして…!!!
やっと大ガマと本当に仲良くなれた気がしたのに、こうもあっけなく崩されるものなのかと。
大ガマは都へは連れていけない。
いや、連れてってなどいけない。
私を閉じ込める檻でしかないところで、大ガマが生きてなどいけるわけがない。
見つかれば殺されてしまうかもしれない。
そう考えたら、大ガマとは今別れるしかなかった。
『大ガマ…。
今回ばかりは連れていけないわ……。
ただ、不幸になるだけだもの…
これで一生のお別れよ…
今まで…ありがとうね。
さようなら…
私の分も…自由に生きてね!!!』
ゲコッ!っと聞こえた気がした。
でも今回ばかりは振り返ることは出来なかった。
真っ直ぐ、山から村へと全力で駆け抜けた。昨日の夕方までのあの幸せがまるで嘘のようだ。
このどうすることも出来ない絶望の前に大ガマが幸せをくれたのだと思えばいくらか気持ちが和らいだ気がした。
我が儘を言うならば、このまま大ガマと暮らしたい。
そんな気持ちも全部ひっくるめて、今は何も考えたくなかった。
何も考えないように、考えないようにと、私は1度も休むことなくひたすら走った…。
そして、磯上が迎えに来た。
磯上の用意した高価な着物を身にまとい、私は用意された八葉車に乗った。
その隙間から、お金を渡される両親が見えた。
大喜びで受け取り、そして車が出発しても、こちらを一度も見ることはなかった。
前を走る磯上が乗る八葉車が少し見えて、これから先の苦痛を考えるだけで逃げ帰りたくなった。
しかしそんなことをすれば間違いなく殺されてしまうだろうと思った途端、足なんて1歩も動かなくて、ただ黙り込むしか出来なかった。
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