大切なもの。第一章
□絶望
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やっと心を通わせた1人と一匹。
村へと帰る道、村人達がざわめいているのが聞こえた。
村に帰るとこの村を治める都の中納言、磯上が来ていた。
すると悠の姿に気がついた母がすごい剣幕で悠の腕を引っつかみ、家へと引きずり込んだ。
『母さま…！！痛いっ…何ですか…？』
母｢家は貧乏だ｣
『わかっていますが…』
話を続けようとした母に父が割り込む。
父｢珠日。｣
母｢はい、あなた｣
父｢俺が話す｣
そういって両親は二人揃って座り、悠にも座るように言った。
何が何だかわからず、悠はその向かいに座った。
父｢磯上様が来ていることは知っているな？｣
『はい』
父｢その磯上様が、お前を伴侶にしたいと言って下さったのだ｣
その言葉はずしりと悠の心に重くのしかかった。
『そ、れは…』
母｢丁度いいでしょう？行き遅れたお前は結婚もできる、口減らしにもなるし私達にはお金を頂けるの。｣
いやだとは言わせないわ。
そう言った母の目には、悠など一切映っていなかった。
冷たく言い放ったのだ、この母は。
私など単なる道具でしかないのだと。
『…少しだけ……時間を下さい…』
父｢構わんが…逃げるような真似はするなよ｣
母｢弟達の為だと思って、結婚してちょうだいな｣
返事をしようにも、悠の口の中は渇き、頭の中が真っ白だった。
裏山でぼんやりと考える。
やがてぽろぽろと涙が零れた。
『大ガマ…私っ…結婚なんて嫌だ…嫌なのに…っ！逃げられないっ……！！！』
うわぁぁあああんと悠は大ガマを抱き締めて泣いた。
何も出来ない大ガマは、またただそばに居るだけしか出来なかった。
家に帰ると、そこには磯上がいた。
磯上｢おお、お悠……！
私の思った通りだ、そなたは本当に美しい…。では、盛彦よ｣
父｢はい｣
磯上｢明日の正午、迎えに来る。
褒美の金はその時に渡すぞ｣
父｢ありがとうございます、磯上様｣
悠の意思など、全くない会話。
ただ静かに聞いている悠には生気が抜けて、もはや何も聞こえなかった。
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