大切なもの。第一章

□ひまわりの約束
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遂に来た別れの日。





『元気でね』



涙が溢れそうになるのを必死で抑えながら、悠は蛙をそっと地に降ろす。



「ゲコ…」

『おまえの名前……結局ずっとおまえって呼んだままだったね…。
お別れに、名前を付けてもいいかな……?……私を、少しでも覚えていて欲しいから………』



そういうと悠は暫く考え込んでいた。



『蝦蟇に……大きく立派になれるようにと願いを込めて大ガマでどうかな?』

「ゲコ」



大ガマは静かにただ一度だけ鳴いた。
わかった、とでも言うように。




『それじゃあね』



悠はさっと立ち去ろうとする。
夕日に照らされた悠の背中はとても憂いを帯びていた。



「ゲコっ!!」



そんな悠を鳴きながら追いかける大ガマ。



『っ………!』



涙をぼろぼろと零しながら悠は振り返った。



『…んで………?何で付いてくるの……!
私とはもう一緒にいる必要がない、お前はっ……大ガマは自由に生きていくべきなの…!!
こんな風に付いて来られたら………、っ…離れられなくなっちゃうじゃないの………。』



へたりと地面に座り込む悠に、大ガマはそっと近寄る。
近寄る大ガマに涙を零しながら手を伸ばす悠。
悠の両手が大ガマに触れる。



『私と………一緒にいてくれるの…?






私と……ずっと…一緒………?』

「ゲコッ!!」



大ガマは大きな声で鳴いた。

悠は大ガマを手のひらで包み込んで抱き上げて、顔の近くに寄せた。



『嬉し………!
私っ、こんなに嬉しいの生まれて初めてよ…。
ありがとう大ガマ…大好きっ…!』



大粒の涙をこぼす悠の顔に、大ガマはそっと触れた。

触れてきた大ガマに悠はさらに泣いた。
やっと正直になれた一人と一匹は、幸せを精一杯噛み締めて、しばらくその場を動かなかった。








夕日に輝く悠の涙、

人間と蛙の種族を超えた仲の良さは、


まるで神聖なもののように見えるのだった。



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