大切なもの。第一章
□夜来る
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桜の木は毛虫がいっぱいで蛙が食べきれないほどいた。
お腹がいっぱいになった蛙を肩に乗せて、薄暗い道を歩く。
少しゆっくりと過ごしていたため、日はほとんど沈み、あと少しで夜になる。
『今日は本当にいい天気だったね』
「ゲコッ」
歩きながらそんな会話?を交わす。
しかし、いくら五月とはいえそれ程暖かくはないのだが、今日は特別冷たい空気が漂っていた。
『……(まさか…)』
気にすると気付いてしまうもので、悠の5、6歩ほど後ろをついてくるような気配があった。
「ゲコッ」
強ばりはじめた悠の顔を見て蛙は鳴いた。
『後ろ、お前は見えるかわからないけれど………多分浮遊霊がいるはずだよ』
そっと視線を向ける。
ニタリと笑みを浮かべながら音もなくついてくる、人でも妖怪でもないもの。
成仏できずに長く浮遊霊になっていたせいか悪霊と化していた。
少しだけ移動の速度を上げて近づいてくる悪霊に気付かないふりをしながら歩みを早める悠。
『追いつかれそうね、走って逃げよう!』
肩に乗っている蛙を手に抱え直して全速力で家まで走る。
追いかけてはきたが、何とか振り切ったようで、玄関に辿り着く頃には悪霊は見当たらなかった。
『ハァ…ハァ…ハァ……(…ここら辺じゃ見ない霊だったな)』
「ゲコッ」
蛙はぎゅっと眉を寄せて顔を顰める悠を心配するように鳴いた。
『ごめんね、怖い思いさせた…?本当に悪いんだけど…いつもの場所にはさっきの霊とまた会っちゃうかもしれないから今日は送ってあげられないの……』
だから一晩家で過ごしてほしい、という悠の言葉に少し驚いたような顔をしたあと、すぐに心配そうな顔でゲコッと返事をした。
悠は布団を敷いている。
風の吹き抜ける廊下に、だ。
何故かわからなくて蛙はまた鳴いた。
「ゲコ…」
『……明日…話すから…、今日は…ただ私のそばにいて……』
そういって悠は布団に潜り、あっという間に寝てしまった。
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