大切なもの。第一章

□出会い
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それはいつも通りの日常。

夕方まで畑仕事を手伝ったあと、村の端にあるたった一つの井戸から水を汲んでから家に戻ろうとしていたときのことだった。






村の子供@「はははっ!やれやれ〜!」

村の子供A「悪いやつをやっつけろ〜!」




きゃっきゃとはしゃぐ小さな男の子たちの声に、元気だなぁと思いながら“悪いやつ”をしてくれる大人が見当たらないことに疑問を感じて、まさか他の子を?という考えが過ぎった悠は子供たちに話しかけた。




『みんな、こんな時間まで元気ね!
何をして遊んでいるの?』

村の子供B「悠姉さま!あのね、剛彦が蛙を見つけたのです!」

剛彦「ばかっ!何姉さんに言ってんだよ」

『剛彦、また生き物を虐めたのですか?』

剛彦「う…だ、だってコイツ普通の蛙と違って変な色してるし…」

『変な色だから虐めてもいいのですか?もし、剛彦が意地悪なやつだからと虐められたらどう思うのですか』

剛彦「そんなやついたらやっつけてやる!」

『そういう問題ではないでしょう!もういいです、家に帰って母さまの手伝いをしてきなさい。
一体何を…まぁ!
ボロボロじゃない!なんて酷いことを!!剛彦、貴方には思いやりの心などないのですか!?』




傷だらけで泥に汚れ、体の模様は土で見えなくなるまでボロボロの蛙を、そっと抱き上げて剛彦に声を荒らげて叱る。




剛彦「けっ、そんなのもういらねーから姉さんにやるよ、お前ら帰るぞ」



そういうと剛彦は悠の話も聞かずにその場からさっさと逃げるように行ってしまった。




『もう、あの子ったら……。何故生き物に優しくできないの…
ごめんね…もっと早く気づいてあげられたらよかったのだけど……』


悠はそっと蛙を撫で、汲んできた井戸の水に手ぬぐいを浸し、蛙の汚れをそっと拭き取った。

閉じていた目は開き、紅く輝く蛙の美しい目がが現れる。
汚れた体は綺麗になり、鮮やかな黄緑に青い模様が良く見えるようになった。


『なんて綺麗な蛙……』


抱き上げたときはなんとか手から逃れようとしていたその蛙は悠がそっと体を拭いているうちに静かになった。

開かれた目が真っ直ぐ悠を見つめた。



『おまえは綺麗だね、真っ直ぐで綺麗な目をしてる。私の心まで安らぎそうな程純粋な目をしてる。
……傷がひどいから、このまま少しの間だけお世話をさせてくれない?静かに休めるようにするから…』

「ゲコッ」

『…いいの?』

「ゲコ」



もう一度鳴く。どうやら悠に世話を任せてくれるようなので悠は取り敢えず家へ向かうことにした。



『おまえは賢いね。あのね、私一度生き物と暮らしてみたかったの。
私の、唯一のお友達として…』



ニコニコと少し嬉しそうに笑う。
嬉しそうにしながらもうっすらと涙を浮かべた悠の瞳の奥は少し悲しそうで、そんな悠に、首を傾げながらゲコっと小さな声でもう一度鳴いたその蛙が、まさか何百年も生きた後に大妖怪大ガマになるとは、
そのときはまだ、誰も知らなかった…





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