短編@
□月が綺麗ですね
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すっかり暗くなって、みんなが寝静まった頃、私と大ガマは本家屋敷の縁側で二人だけで空を眺めている。
『ねぇ、大ガマ』
「んー?」
『月、綺麗だね』
大ガマはいつだって明るくて、どんなことがあっても守ってくれて、いつしか私の目には大ガマしか映らないくらい惹かれていた。
大ガマは妖怪だから、この言葉の意味を知っているかわからない。
けど私が想像してるよりずっと長い時を生きているから、知っていてほしいと願ったり、やっぱり知らないでいてほしいとか矛盾した考えが頭の中でぐるぐるしてる。
「そーだなぁ、まんまるで綺麗だ」
『っ………』
大ガマからそう返ってきて少なからずがっかりしてる自分がいる。
これじゃフラれるどころか告白されたことすらこの大将は気づいてないんじゃないかと思う。
「なぁ、その言葉どっちの意味だ?」
『え…』
トンっと近くの柱に軽く押さえつけられながら真剣な眼差しでじっと見つめてくる大ガマにたちまち顔が赤くなる。
『そ、な、…えっ』
「葉月は俺が好きなのか?ただ綺麗だと思ったから言っただけか?
……俺が葉月を好きだと知っていてその言葉を使ったのか…?」
ぎゅっと左手で胸元の着物を掴んで恐る恐る尋ねる大ガマは普段の堂々とした大ガマからは想像もつかないほどで、
今見せているのは本家大将大ガマではなくてただの大ガマだと思うと、たちまちに今まで抑え込んでいた気持ちがどうしようもなく溢れ出した。
『大ガマ…むぐっ』
「どっちか聞く前に先に言わせてくれ。
俺は…葉月が好きだ、どうしようもないくらい好きだ…。」
ぎゅっと葉月を抱きしめる大ガマの背中に、葉月はそっと手を伸ばして抱きしめ返す。
『私も大ガマが好きだよ…どうしようもないくらい』
「葉月……好きだ…」
どちらからともなく顔を近づけて重ねるだけのキスをした。
「これで堂々とイチャイチャできるな」
ニヤッと笑った大ガマにはもうすでにいつもの自信満々な顔が戻っていて、
どんなに人(妖怪?)がいても何かする気で少しだけ冷や汗をかいた葉月だった。
(どこかれ構わずキスしてこないでーーーーーー!!!!)
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