ハイキュー!!

□西谷夕
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自分の部屋に彼女がいると言うのは随分感慨深いが、遊びに来たわけではない。
顔を付き合わせてするのはテスト勉強だし、捗っていないのは俺だけで、なまえはスラスラと淀みなくペンを動かしていた。癖で自分の唇を舐めればなまえが眉をしかめてポケットを漁る。

「あげる」
「?」

取り出されたリップクリームはコンビニなんかでよく売ってる普通のヤツで、俺は名前とそれを交互に見ながら首を傾げた。

「目の前でベロベロやられると気になる」
「ベロベロはしてねぇよ」
「ノヤの唇が荒れるとヤダなって思って」
「俺はお前の唇が荒れなきゃ何でもいいぜ!」
「…男前ダネー」
「おう!サンキュ!」

にっかと笑ってリップクリームを返してから、ふと思い至ってなまえを見る。何の気なしに唇にクリームを引いていたなまえがキョトリと目を丸めた。

「やっぱ使う?」
「ん、いや。いらねぇ」

平机に手をついてなまえの顔に自分の顔を近づける。ぎょっと目を見開いたなまえが後退りするのを手を掴まえて阻んだ。
小さなリップ音と自分の唇に移ったクリームの感触に上唇と下唇をくっ付ければ、薬品の匂いがつんと鼻を刺激する。

「今度買う時は俺と行こうぜ。甘いの選ぶからな!」
「………………え、お、うん…」

もうすぐ夏も近づく今日この頃。
まだそれほど暑くない天気の中、顔を真っ赤に染め上げたなまえに俺は笑ってもう一度キスをした。

「……ノヤって意外と余裕だよネ」
「?したいと思ったらするのが普通だろ?」
「……あー、うん。まぁ、そうだね」
「嫌だったか?」
「………それ言わせるのはズルくない?」

頬杖をついたなまえが顔をパタパタと手で扇いで疎ましそうに俺を見る。眉間にシワを寄せながら腕を組んだ俺は唇を尖らせてなまえを見返した。

「嫌だとか嫌じゃないとか言ってくんねぇと困るだろ」
「何で」
「好きなやつの嫌がる事はしたくねぇし、好きなやつのしてほしい事はもっといっぱいしてやりたいだろ」
「…………」

沈黙したなまえは上体を机に押し付けて「だからお前サー」と呻く。腹でも痛くなったのかと心配すれば「そうじゃない」と小さく溢してなまえの瞳が俺を見た。

「ノヤ」
「ん?」
「好きだよ」
「…おう!俺も好きだぜなまえ!」

一瞬きょとりと目を丸めてから満面の笑みでなまえを抱き締める。ぎゃーとかなんとか喚いて一緒に床に倒れ込んだなまえが呻き声を上げて天井を仰いだ。

「あーもーどうしよ」
「?どうしたなまえ?」
「ノヤが男前すぎてドキドキする」
「おう。サンキュ」
「褒めてねぇよ」
「そうなのか?」
「いや、褒めてるけど」
「どっちだよ」

両手で顔を覆ってあーだのうーだの言っていたなまえの唇が真一文字に引き結ばれる。引き寄せられるように身体を折り曲げなまえの唇に自分の唇をくっ付ければ、耳まで真っ赤にしたなまえに「そういう所だよ馬鹿!」と叫ばれた。


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