黒の教団 食堂での一時
□お調子者のあなた
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『はぁ〜〜……』
思わず大きなため息をついたところで、聞き覚えのある声が聞こえた。
「おや、誰かと思えばひとみ嬢ではないか。こんな所におるとは、珍しいのぅ」
『あ、ブックマン!こんにちは』
特徴的な目のメイクに髪形。誰だか一発で分かる見た目だ。
「時にひとみ嬢。何か探しておるのか?」
『あ、はい。実は薬草や漢方の本を探していて……』
「ふむ、薬草や漢方の本か。それならば向こうの本棚に何冊か置いてあったはずじゃ」
さすがはブックマン。ありとあらゆる世界の本や新聞を読破し、さらには本には残らない裏歴史まで記録をしているのだ。
こんな図書室であればどこにどんな本があるかは、すでに把握済なのだろう。
指を指してその本棚を教えてくれた。
『あ、ありがとうございます。助かりましたぁ〜!』
「礼には及ばん」
ブックマンはそう言って、そのまま図書室を出ていった。
『(いつもながら不思議なおじいちゃん……でも本当に助かったぁ)』
ブックマンに教えてもらった本棚に向かい、目当ての本を探す。
部屋の隅の方にある本棚だった為、他の本棚より陽も当たらず暗い。
よく見えないのでランプを持ってこようと引き返えそうとした。
ところが暗がりから出てきた手に手首をぐいっと捕まれ、そのまま本棚に体を押さえ付けられてしまった。
『きゃあっ』
突然の事に頭が追い付かない。
少し声は出たようだが、隅の方なので他の人に声は届かなかったようだ。
一体何が起こっているの………?とぐるぐる考えていたら、今度はぎゅっと抱きしめられてしまった。
『(これは本当にヤバイかも!!!)』
最悪の事態に血の気が引いていく。急いで逃げようと、一生懸命体を捩った。
するとクスクスと笑う声が聞こえる。
「ひとみ、ごめんさ〜。ビックリした?」
捩っていた体がピタッと止まる。
聞き覚えのある声。聞き覚えのある話しグセ。
まさか…
『……ラビ?』
「へへ、あったり〜!」
食堂で働いてる時によく話しかけてくれる、年下の男の子。
時間が合う時は彼の仲間も一緒に、お茶やおしゃべりをした事もある。
『も〜〜…本っっ当にビックリしたぁ……』
思わず体から力が抜ける。よく知っている人の悪戯と分かり、心の底からホッとした。
「ごめんさ〜!ここでひとみに会うなんて思わんくて、ついつい……」
『ついつい、こんな心臓に悪い悪戯をしないでよね!』
驚かされた事について、さすがのひとみも文句を言う。ラビは笑いながらもちゃんと謝ってくる。
しかしひとみは、ハッと気づいた。
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