ひらりと翻り

□第八夜 買い物
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「あっちの方だな」



イギリスはロンドンの街を歩く。
私が暮らしていた現代でも有名な時計塔、ビッグ・ベンがその雄姿を見せる。


私はイギリスに行った事はなかったが、まさか150年前のイギリスに来ようとは……
とても不思議な感じだ。


歩きながらTVでよく見る時計塔を見ていると、神田がそれに気づいたようだ。



「あぁ、少し前に出来た時計塔か……」
      ※ビッグ・ベンの竣工は1859年


少し前。
私にとっては昔から存在する、イギリスのシンボルとも言える建物だ。
神田の言葉で、私がこの時代の人間ではないのだと思い知らされる。


『……素敵な建物だね』

「そうだな…」


それだけ言葉を交わし、私たちは買い物をする為に目的のお店へと向かっていった。







『……………………………ここ?』

「あぁ」


何て言うか、外観がとても個性的なお店だ。
全体的に黒く、屋根や窓枠などがだいぶ……いや、かなり痛んでいる。
扉に『OPEN』の札が無ければ、やっているのか分からない程だ。


コムイ室長……どんな買い物をさせる気なんですか。



恐る恐るお店に入ると、白い髭をたくわえたおじいさんが、カウンターに座っていた。


「この紙に書いてある品を用意してくれ」


おじいさんにメモを渡し、品物を用意してもらう。

キョロキョロとお店の中を見ているが、何に使うのかサッパリ分からない物で溢れていた。


『何これ……』


得体の知れない液体の中に、カエルっぽい物が浸かっている。
その隣にはよく分からない、ドロッとした紫色のゼリー状の物が置かれている。

……これ以上見ていると、具合が悪くなりそうだったので、品物から目を離した。


「終ったぞ」


神田の声がした方を向く。神田は紙袋を手にしていて、買い物が終わっている事が分かった。


『今行く!』


コムイ室長から頼まれた、不気味なお店での買い物はこれで終了。


という事で、晴れて私の買い物が出来る事になった。
道すがらいくつか目ぼしいお店を見つけていたので、そこに向かって歩き出そうとした。


「俺はそこの広場で待ってるからな」


神田にかけられた言葉で、足が止まってしまった。
あれ?コムイ室長は護衛を兼ねての付き添いって言ってなかったっけ?


『神田は行かないの?』

「……俺が女物の店に入れるか」



うーん、確かに。
それに神田が一緒に居たら、お店のスタッフさんも恐がるよね!


『分かった!そこで待っててね!』

「あぁ」


よし!この際だから、一人で思いっきり買い物を楽しもう!

神田と別れ足取りも軽く、まずは洋服のお店へと向かって行った。



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