黒の教団 食堂での一時
□手紙で繋げるきみ
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馬車に揺られながら、目的の街を目指す。
その街はドイツ郊外にある為、列車のある街からはかなりの時間がかかるようだ。
目の前には疲れが出たのか、ユラユラと船を漕いでいるコムイ。にしてもこいつがわざわざ、エクソシストが入院している病院まで赴くなんて初めてのケースさ。それだけ切羽詰まっているって事なんかな……
ふと馬車の窓から外を眺めると、空は曇っていてどんよりと重苦しい……
「なーんか、幸先悪そうさ……」
「ノアが出現したのだ、心してかかれよラビ」
「わーってるさ」
そう、分かっている。
エクソシストとしてもブックマンとしても、気の抜けない状況に差し掛かっているのだろう。AKUMAとの全面戦争が始まってしまうのだから。
ふぅ、とため息を軽くつく。こういう大変な状況になった時、思い出されるのは平穏な日常だ。もちろんラビも例外ではなかった。
「はぁー……早くもひとみの笑顔が恋しいさ……」
「フン、未熟者めが」
「うっさいさ、パンダジジイ!」
そして始まるいつものやり取り。狭い馬車の中でギャーギャー騒ぐものだから、船を漕いでいたコムイも目を醒ましてしまったようだ。
「あ、悪い。起こしちまったさ?」
「……ん、大丈夫だよ。ふあぁ………」
大丈夫とは言いつつも、その後に出たのは大きな欠伸。しょっちゅう徹夜で疲れ果てている科学班にいるのだ。少しでも休める時に休みたいだろうに……
申し訳ない事をしてしまったな、と心の中で謝る。でもコムイはそんなラビの想いとは裏腹に、何でもないような顔をしている。
「ところでラビ。ひとみちゃんから渡された食べ物、少し貰ってもいいかい?」
「あぁ」
そう言いつつ指差すのは、となりに置かれたトートバッグ。その中には日持ちするように作られた、所謂保存食が大量に入っていた。
ひとみに任務に行く事を告げてからそんなに時間は経っていなかったのに、よくもまぁこれだけの量を用意出来たもんだ。さっすがひとみ。
「ほいよ」
そのトートバッグの中から小分けされた袋の一つを取り出し、コムイへと投げ渡す。
上手く両手でキャッチした袋をカサカサと開け、中に入っている野菜入りのキッシュに似た食べ物を口に運ぶ。
コムイはモグモグと口を動かし、ひとみの作った食べ物を堪能しているようだ。
「うーん、なかなか美味しいねコレ」
「ひとみが作ってくれたかんな、美味しいに決まってるさ!」
「ふふ、そうだね」
何だか、不思議だった。
今は切迫した状況で、普段は本部から離れないコムイまで現場に向かっていて。AKUMAと伯爵だけではなく、ついにノアまで出現したというのに。
ひとみの作った食べ物を食べると、和やかな空気が発生する。こんなに急いでいる馬車の中でも、それは例外ではなかった。
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