Fallen Angel ―堕天使―
□序章
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あの時の事は、今でもよく覚えてる。
まるで天使がその羽を失って堕ちてきたのかと、錯覚してしまったのだから………
「ティーファー!今日のご飯なにー?」
「ふふ、今日はマリンの大好きなオムライスだよ」
「やったぁーー!!」
カウンターから顔を覗かせるまだ小さなマリンが満面の笑顔で喜ぶ。まだお店を始めたばかりで不馴れな事も多いけど、こんな笑顔を見るとそれまで溜まっていた疲れもどこかへ吹き飛んでいく気がするから不思議。
その日もいつものようにカウンターにあるキッチンで、マリンの為にお昼のオムライス作りを始めるところだった。
ガタガタ………ガタッ
「ん?」
不意に店の窓ガラスがガタガタと鳴り始め、出入口の扉もギイギイと鳴る。さっきまでは穏やかな天気だったというのに……
ガタガタッ!!ビュウゥゥ………!!
どんどん唸りを上げるように風が強くなっていく。あまりにも急に強くなってきた風に私とマリンは入り口の方を見つめた。
「ティファ………」
「大丈夫だよ、マリン。ちょっと様子を見てくるね!」
「あ、あたしもいく!」
1人でいるのが恐いのか、マリンは私の後ろに隠れるようにしながらくっついてくる。思わず苦笑しながら、そんなマリンの頭を撫でてあげた。
入り口の扉をキィ…と開けると、不思議な光景が飛び込んでくる。お店の周りにいる人達も何なんだと遠巻きにそれを眺めている。
「あれ……なに?」
マリンが呟いた言葉は、正にティファ自身も思っていた事だった。
彼女たちの店セブンスヘブンの前にある広場に、大きな竜巻が起きていた。乾いた砂埃を巻き上げ茶色く渦巻いているそれは、プレートには届かないもののそれなりの高さがあるように見えた。
「一体、何?」
「あっ!ティファさんっ!何っスかこれ!?」
砂が目に入らないように腕で顔を庇いながら様子を見ていると、駅の方からウェッジがその大きな体を揺らしながら駆けてきた。
もちろんその顔は驚きに彩られている。
「分からない……急に風が強くなってきたと思ったらこんな事に……」
「はー……こんなプレートの下でも竜巻なんて起こるんスかね?」
「…………あれっ?だれかいるよ!」
後ろを振り向くと、竜巻の中を指差しているマリンがいる。その指の先を見つめると、確かに茶色い砂埃の中にはチラチラと白い影が見える。
「大変!」
あんなひどい竜巻に巻き込まれているなんて、息も出来ないだろうし早く助けなければ!
そう思うやいなや竜巻に向かって走り出した。後ろからは「ティファさん!」とウェッジが叫んでいるけど、止まるわけにはいかない。
目の前に迫るとその風の勢いは突然弱くなり、砂煙が舞っているだけとなった。砂煙を吸い込まないように口に手を当てながら進むと、そこには一人の女性が倒れているのが見える。
「大丈夫ですか!?」
彼女の肩を揺すりながら反応を確かめると、「う……」という声が漏れる。
「よかった、生きてる!」
思わずそう声を上げると、ウェッジや近くにいる人達がざわざわと集まってきた。
「この人、生きてるんスか!?」
「うん!お店に運んで休ませよう」
「それにしても……」
思った事はすぐ口に出すタイプなのに、何故か口ごもるウェッジ。周りからひそひそと話す声も聞こえ、今一度彼女に目を落とした。
「………検査着?」
少し砂埃で汚れているが、元は真っ白だっただろう検査着を着る彼女。それはまるで、羽を失い地上へと堕ちてしまった天使のようだった。
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