夜空に願いを
□ふわりとした笑顔
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「マズイ!奇行種だーーっ!」
「荷馬車の方に向かってるぞ!」
「チッ!」
周りから上がる声に舌打ちをしながら黒の信煙弾を見つめる。右側に広がる平原にいるのは10m級の巨人で、手をバタバタと振りながらこちらへと走って向かってきた。どうやら右翼索敵班の人間を無視しているようだ。
陣形の中でもリヴァイは昨日とは違う場所に就いている。右翼索敵と中央荷馬車の間にある、伝達の位置だ。ちなみに左翼の同じ位置にはハンジの班が就いている。
荷馬車を守るのはいつもの事だが、今日は特に手厚い布陣だ。
「俺たちでやるぞ、付いてこい!」
「はいっ!」
リヴァイは自分の部下を二人連れ、巨人の方へと向かっていく。すると森の影から別の巨人が顔を出していた。森の中にいたせいで、索敵班が取りこぼしたのだろう。
「班長!5m級が1体いますっ!」
部下の一人が声を上げる。今の状況で最善の対処は明らかだ。
「お前らはそこの5mの奴をやれ!奇行種は俺がやる!」
「はいっ!!」
二人と分かれ自分は奇行種に向かって馬を走らせる。チラッと横目に見れば、二人は巨人と戦い始めるところだ。部下とはいえ、リヴァイよりも先に入団している兵士という事もあり、問題なくうなじを削ぎ落としていた。
「さて、てめぇの相手は俺だ」
目の前に迫った奇行種に対して、リヴァイは立体機動で肩の辺りへと飛んでいく。そのまま体を回転させ、10m級の巨人をあっさりと倒したのだった。
向かって来ていた巨人を倒し、陣形の元の位置へと戻っていく。途中で分かれた部下とも合流し、とりあえずは被害は出ずに済んでいた。
「さすがリヴァイ班長!あっという間でしたね!」
「お前らもよくやった」
ぶっきらぼうな言い方ではあるが、普段あまり褒めない人だと知っている為、部下たちはその一言にとても喜んでいた。
リヴァイも新しくできた部下を死なせずに済んだ事に、少しだけ安堵の表情をみせている。
元いた陣形の位置に戻ってくると、リヴァイだけは前に進みながら左の方へと向かっていく。
つまり荷馬車へと向かっていた。
「班長?」
「……荷馬車班に伝達がある。お前らはこのまま陣形を崩さず前進しろ」
「え!?で、ですが……」
「大丈夫だ、すぐに戻る」
部下たちはその布陣のままでいるよう言い残し、リヴァイはさっさと遠目に見える荷馬車へと向かって行った。
荷馬車のすぐ近くまで来たところで、そこの班長に声をかけた。
「おい、アイツはどうしてる」
「あぁ、大人しくしてるよ。さっきお前が戦っているところを見ていたようだがな」
「そうか」
そのまま荷台に近づくと、そこにはシーツを頭から被った状態でこちらの方を見つめている女がいた。
『リヴァイさん……』
「よぅ、気分はどうだ」
『………あれが、巨人………なんですね』
「………あぁ」
その反応を見る限り、本当に巨人を見るのは初めてのようだ。いや、調査兵団や駐屯兵団の兵士以外で実物を見た事がある人はそういないだろう。しかし巨人が存在し、人類の驚異である事はみんなが等しく理解している。
しかし、この女は……
『本当に、巨人なんてものが……』
巨人の存在すら、忘れていたのだ。
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