年下の綾部くん
□私と周りの変化
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その日の夜
『失礼致します。お酒をお持ち致しました』
廊下で正座をし、部屋の中にいる人へと声をかける。「入れ」と短く返事が返ってきたので、襖をスッと音がしないように開ける。
頭を下げ『失礼致します』と言って顔を上げると、部屋の中には寛いだ様子の昼間の男性が座っているのが目に入った。
襖を閉め、お酒とお茶を乗せた盆を持ち、部屋の中へと進み入る。その一挙一動をじっと見られていた。
正直その視線が痛くて仕方がない。
『お待たせ致しました、お酌致します』
「うむ」
役人の持ったお猪口に、なみなみとお酒を注ぐ。それをくいっと一気に煽ってしまった。
『いい飲みっぷりですわね』
「いい女が側にいると、酒も進むものだ」
『まぁ………』
笑顔を作り役人に愛想を振り撒く。面倒で仕方無かったが、これも実習で合格を貰うためだ。たわいもない話をしながら、酌をしていった。
少し時間が経ち、役人の顔がいい感じで赤くなってきた。それもそのはず、お銚子をすでに二本空けてしまっているのだ。
どうもこの役人は酒に強いらしく、赤くなるだけで、呂律もしっかりしている。それにしても………
『( そろそろのはずなんだけどな…… )』
首を傾げていると、手をきゅっと握られビクッとしてしまった。
なるべく平静を装って声を出す。
『あ……いかがしましたか?』
「分かりきった事を聞くものではないぞ?」
『え………う、わっ』
そのまま腕をぐいっと引かれ、役人の腕の中へすっぽりと入ってしまった。
そのままぎゅうっと抱き締められてしまう。
『お、お戯れを…….』
「何を申すか、お主もその気ではなかったのか?」
そんな事を言いながら役人は私の首に顔を埋め、何やら匂いを嗅いでいるようだ。
その行動に背筋に悪寒が走る。
「良い匂いだ。まるで花のようだ……」
『…….っ あ、ありがとうございます……』
気持ち悪い………っ!
でもここで抵抗したら、目当ての密書を探すチャンスが無くなってしまう。
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