年下の綾部くん

□僕の心のしこり
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立花先輩は、容赦なく僕の内側を抉ってきた。もうほとんど逃げ場のない状況に、体育座りをして俯いてしまう。でも今この場には後輩たちもいるのだ。今自分が考えている事を言ってしまうと、かすみが泣いた事も言わなくてはいけない。それは、絶対に出来ない。

「………………」
「……ま、無理に言う必要はない。ただ、いつまでもその状態では困るな」
「………分かってます」

それだけポツリと言うと、立花先輩はふぅ….とため息をついた後、後輩たちに話しかけていた。

「すまないな、今日の委員会は解散する。お前たちはもう長屋へ帰っていいぞ」
「えっ、で、でも………」

突然の委員会の中止。それは僕のせいだというのはよく分かっている。
戸惑う後輩たちがチラッと僕の方を見てくるのが痛い程分かる。ほらほらと帰るように立花先輩が後輩たちを諭している。

「失礼します……」

そして後輩三人がこちらを気にしながらも、作法委員会の部屋を出ていき、廊下を歩く気配も次第に消えていった。


「さて……綾部。お前が気にしていた後輩たちはもういないぞ」
「…………」
「私にも言えないか?」

僕の為にわざわざ後輩たちを帰してくれた立花先輩は、ひどく優しい声色で話しかけている。さっき生首フィギュアを投げつけてきたとはとても思えない。
でも、その優しさに流されるようにポツリと声が出てきてしまった。

「……かすみには、笑っていて欲しいんです」
「ほぅ」
「泣かなくて済むように、僕が何とかしてあげたいって思ってるんです」

話し始めたら、言葉が次々に溢れ出てきた。
僕のかすみに対する想いを、立花先輩に語る。そんな僕の様子に、立花先輩も真剣に話を聞いてくれていた。

「それなのに……この前、久々知先輩に嫉妬して、かすみを泣かせたんです………」
「お前が、か?」
「……………はい」

吐き出した、あの時の後悔。
謝っても謝っても僕の中から消えず、しこりのように心の中に残ってしまった部分。どうしたら消えるのか、さっぱり分からない……

「……泣かせたのは感心しないが、かすみは随分とお前に気を許しているみたいじゃないか」
「え……?」
「お前の前で泣いたのだろう?」

そこでハッと気づいた。
そうだ、今までかすみは人前では絶対に泣かず、誰にもバレないように隠れて泣いていたのだ。

そんなかすみが僕の前で涙を溢した。

今までのかすみなら、きっとその場では泣かずに別の場所で泣いたのかもしれない。
その事実に、心の中のしこりがほんの少しだけ溶けていくのを感じた。




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