夢現な眠り
□4話
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NO side
後ろへ倒れそうなエレンの体を、ライトはすかさず支えた。苦しんでいた表情が、今は眠りについて安らかだ。
「おっと……ホントに大丈夫〜? 百面ちゃ──」
ゆっくりエレンの瞼が開かれ、ライトは言葉を失った。
先程までは澄んだ水色だった瞳が、今は漆黒に染まった瞳の中に、様々な色が交差しているではないか。
どの色も自己を強調するように輝いているが、各色が混ざり合っても、決して気味の悪い色になったりはしていない。
自然とその輝きに引き込まれて魅了されたライトは、無意識にエレンの首筋に口を近付ける。
あともう少しで魅惑な香りを漂わせていた血を味わえると思った矢先、すかさずに"彼女"の手が人体の急所であるこめかみへ叩き付けられた。
「ぅおわっ!!?」
さすがは吸血鬼。といったところなのか、大きなダメージは受けていない様子。
だが、いきなりの事で目を白黒させるライトを横目に、少女はスカートなどの身だしなみを整えた。
「次、私に変なコトをしましたら…」
目を細め、柔らかく微笑んだ。もう瞳の色は元通りになっている。
「関節という関節を外させていただきますよ」
数秒固まってたライトだったが、突然大笑いした。新しい玩具でも見つけたような、恍惚とした表情で。
「素直な子は好きだけど、強気な子も大好きだよ……」
帽子を深く被り直し、目を妖艶に輝かせた。そして独特の笑い声を発する。
「それに…キミは少し『特殊』みたいだし。尚更興味湧いちゃったなぁ!!!」
大声を出すライトを見た彼女は、このまま自分が何もしないで留まっていたら、何か大変なコトになると即座に本能が判断する。
ある程度の距離も保ちながら警戒心を剥き出している少女を、面白そうにライトは舌舐めずりをした。
(相手が吸血鬼となると、一筋縄ではいきませんよね……)
ふと『全力で本気を叩き込めば一人はなんとかいけるかもしれない』という考えが過ぎったが、自分がエレンの体を借りてる以上、限界を超える行動は抑制させなければならない。
ああ、なんてこの身は窮屈なんだろう。
「ねぇ、キミは一体だぁれ?」
そう問われても尚、少女は口を開かずにライトを一瞥している。
周りには無音の空気が漂っているが、この空間は緊張感に支配され、身の毛のよだつような寒さが肌を掠めた。
「……名乗る程のモノではありませんが、『カヤ』とでもお呼び下さい」
透明感を感じさせるような声で、淡々と少女は告げるのだった。