夢現な眠り

□14話
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何とか吐き気は収まってきた。今は体力や気力を使い果たした体を、無理やり引きずり起こしながら歩いている。
口にモザイクをかけたくない思いのみで、あの場を振り切ってきたため、シュウが何かを言ってたのか詳しく思い出せない……。


ふと視界の先に目に入ったのは、鉄でできている謎の扉。忘れようと思ってたのに、こんなにも早く扉と再会するとは。

私は何の気なしに扉の取っ手へ触れる。
静電気が一瞬指先を走ったものの、ヒンヤリとした感触は今の体には気持ちいい。

私はもっと涼を取ろうと、頬を擦り付ける。
ふはー、つめたぁい。天国やー。

全体重を乗せて、ほんの少しだけひと休みしようと思ったときだった。

扉がゆっくりと、滑らかに内側に開く。

「いてっ!!」
それに合わせ、私は床に頭を打ち付けた。ちょっと、いま開くとか聞いてないんだけど。

というか誰も開けられないなんて嘘ではないか。現に私が開けている。

今度こそ、これは現実かを確かめるために、思い切り私は自分の頬を平手打ちした。

熱を持ちながら痛みを主張する頬。よし、現実だ。

私は再びその部屋に立ち寄ってみる。見覚えのある配置の装飾品たち。

そうだ。この前は、この部屋に飾ってある絵を見たらいつの間にか部屋に戻ってたんだっけ。

私は白い布が被さっている絵画へ振り返る。
そして、恐る恐る手を伸ばした。今度こそちゃんと見てみないと……。


その下には、模様が複雑に施されている高価そうな金の額縁と、女性の絵画。

深い紺青の髪は下に行くにつれて鮮やかな空色へと変化していき、その長い髪はハーフアップに纏めていた。
前髪はオールバックにしていて、彼女の凛々しさを感じる。こちらを向く紫色の瞳の中には、意思の強そうな光が宿っていた。
その女性の顔立ちは、ため息を吐くほど美しい。


「誰これ……すごい綺麗な人……」

まるでその女性は絵の中の世界に生きているよう。油絵ってこんなに繊細な部分まで描けるなんて知らなかった。


原作の知識はあまりないから分からないけど、この人も原作に出てくるキャラなのかな?
いやでも友達からはこんな特徴の人、聞いたことない気が……。

ふむ……と色々頭の中で考え込んでいると、廊下の方から何かが倒れる音がした。

「どうしたの──ってユイちゃん!?」

鉄の扉から顔を出して周りを伺うと、冷たい廊下に横たわるユイちゃんの姿。苦しそうに眉根を寄せて胸をぎゅっと押さえている。

額を触ったが、熱はなさそうだ。ひとまず彼女を自室に運ぼう。ここからだと私の部屋の方が近い。

ぐったりと脱力しているユイちゃんを何とか背負い、気合いだけで廊下をを駆け抜ける。ユイちゃんは私の背中で苦しそうに、吐息を漏らしていた。

私の部屋に運び入れ、ベッドに彼女の体をゆっくりと横たわらせた。そしてふかふかのお布団を上に掛ける。

ベッドメイキングしといてよかった……。

いつの間にかユイちゃんは眠っていたようで、まるで死んだようにぐっすり眠っている。顔が青白くてかなり体調が悪いみたいだ。

「大丈夫かな……」
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