お話

□速水学園奮闘記 第3章
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特に何が起こるでもなく、転入してからはや1週間が経った。
もともと外部からの転入は珍しく、しかも夏休み明けすぐだったために、同学年の間では少し話題になってしまったらしい。
転入から3日ほどは、俺の顔を一目見ようという人間がいつの間にか人だかりを作っていた。
俺がとくに容姿が良いわけでもなんでもない人間だと分かると、彼らはすぐに散った。
声を掛けてくれば対応もするのに、陰からこそこそ見られては身動きがとりづらい。
気苦労と慣れない環境の疲れもあって、この一週間はさすがに寮と学校の行き来だけでかなり体力を消耗していた。
しかし今日は日曜日。幸いにも、晴天である。
学校が休みで体力も戻り余裕が出て来たので、学園を見て回ることにした。
ちなみに、寮は2人部屋にも関わらず同室の生徒はこの一週間一度も帰って来ていないため、かなり悠々自適に過ごせていた。
部屋も予想通り馬鹿みたいに広く、玄関を入って通路にはトイレと洗面所、その通路を進んで扉を開けると共有のスペースであるリビング、そして左右に個人部屋という構図になっている。
共有スペースにはキッチンもあり道具もそろっているため、慣れて来たらそこで自炊をしようと目論んでいる。
学園の内部だが、インターホン事件があったあの門までは車で10分という距離だが、実は他の建物同士はそれなりに近いらしい。
近いと言っても、書院造の東門から鹿鳴館もどきまではゆうに歩いて10分はかかるわけだけれども。
さらに鹿鳴館の隣にある旧帝国ホテルもどきの寮までが、入り口を出てから入り口まで10分ほど。
そして、旧帝国ホテルの後ろ側に位置する書院造の風紀委員棟までが5分ほど、さらに後ろの天守閣の生徒会棟までが10分ほどである。
といっても生徒会棟自体の入り口は天守閣らしく坂を上ったうえにあるので、その坂を上ると15分ほどかかる。
10分で着くのは、坂の脇にあるエスカレーターを用いた場合だ。
鹿鳴館から生徒会棟までの時間が比較的短いのは、すべて入り口が城門側を向いた造りになっているからだ。
そして、逆L字型の空欄の部分と周辺には、体育館や弓道場、プール、テニスコート、乗馬用の厩舎とコース、その他いろいろあるらしい。
地図を片手に一通り歩きつつ、なんとなく舗装された道の脇にある森に足を踏み入れてみる。
自然の山を残したというよりも明らかに人為的に植えられている、どこか整えられた土の道を進んでいると、途端に開けた場所に出た。

「わ、すげぇ……」

目の前に広がった光景に、俺は思わず声に出してしまう。
そこには、緑豊かな噴水庭園があった。
地面は芝生で覆われ、真ん中に噴水。そして、周りを囲む色とりどりの花々。
花には詳しくは無いけれど、それでも年中花が見られるようにと四季折々の花が植えられている。
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