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□きっと明日もその先も
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なぁ、なまえ。
覚えてるか?
あの時、初めて会った時だよ。
確かお前、びびって泣いてたよな。
俺さ、あの時、びびってるお前にびびっちまってさ、2人で泣いて、親困らせたよな。
幼稚園のさ、入学式ん時だよな。
なまえはさ、母さんから全然離れなかったよな。
それで、俺が引っ張っていったんだぜ?
そしたらお前、俺のこと見るたび泣くようになったよな。
あれ、結構傷ついたんだぞ?
なまえは、よく転んでたよな。
でも、泣き虫なくせに、転んだとか、怪我したとかではあんまり泣かなかったよな。
俺、お前のそういうとこ、すげえって、思ってたんだ。
それでさ、ほら、あの時も。
お前、ビビリだし、泣き虫だろ?
なのにさ、いじめられてたあの、女の子。
助けようとしてたよな。
いじめっ子の前に立ってさぁ、怖くて震えてんのに、涙目なのにさぁ、頑張っててさ。
その時、俺言ったよな、ヒーローみたいだ、ってさ。
ほんとにそう思ったんだぜ?
ヒーローって、弱いヤツを助けるだろ?
そんで、どんなに自分がピンチでも泣かねぇだろ?
なまえみてぇだ、って思ったんだ。
それ言ったらお前、喜んで飛び跳ねてさぁ、足捻ってたよな、覚えてるか?
はは、あの時は俺も焦った。
ほんと、ドジだよなぁ。
そうだ、小学校のころ、あれも笑った。
ほら、なまえさぁ、リレーの選手だったろ?
1年生の時。
俺、違うチームなのに、バトン間違えて俺に渡してさぁ、大泣きしたから、誰も怒れなかったやつ。
俺、何もしてねぇのに謝ったの。
なまえはさ、謝られると条件反射みたいな感じでいいよ、って言うだろ?
だからあん時も、いいよ、とか言ってさぁ。
上級生とか先生は大爆笑だったよな。
そしたら俺も楽しくなってさ、なまえも笑い出してさ。
なんか、思ったんだよ。
なまえは、人を笑顔にするな、って。
俺、なまえといる時はいつも笑ってた気ぃするしな。
ほら、俺がさ、ちょっと事故って少し入院した時あったろ?
確か、小6くらいの時、かな。
あん時はさ、俺、大して怪我してないのに、なまえぼろぼろ泣いてさ、俺、病人なのにお前にりんご剥いてやったよな。
後からなまえの母さんが来てさ、お前、病人に何させてんの!って怒られてたよな。
それで、りんご剥こうとして、指切ってさ、何針か縫ったよな、左手の親指らへん。
結局、俺よりなまえの方が大怪我だったよ、だって俺、確か少し頭打ったから入院しただけで、1針も縫ってないし。
まだ、残ってるな、傷跡。
なまえはさ、どじだし、泣き虫だけど。
あ、怒るなよ?これから褒めるから。
なまえは、すごいヒーローになれるって思ってたんだ。
理由とか、ないけどさ。
ほら、なまえは優しいだろ?
泣き虫だけど。
まあ、その泣き虫ってのもさ、なんていうかな、弱いヤツ目線で考えられるっていうの?
そういうのできるから。
中学校のさ、入学式、あん時もすごかったなあ。
小学校の卒業式でさ、ぼろぼろ泣いてさ、なのにまた、入学式でも泣いてたよなぁ。
中学校の入学式で泣いてたやつなんて、なまえだけだったぜ?
クラス違かったらどうしようってさ、泣いててさ、クラス一緒だってわかってもやっぱり安心して泣いててさ。
なまえはほんとに、泣き虫だったよな。
ヒーローになるなら、泣き虫直せって何回も言われてたよな、親とか先生とかに。
なまえがさ、雄英行くって言った時、俺、少し悲しかったんだぜ?
なまえはヒーローに向いてるって何回も言ってたけどさ、でもさ、ほら、俺より強くなんないでほしかったんだよ。
ありきたり、っていうか、馬鹿みたいだけどさ、俺が、お前を守りたかったんだ。
どんな強い敵が来ても、俺が守りたかったんだよ、本気で。
そんなこと言ったらさ、なまえはきっと、私は守られるんじゃなくて守る方だ!って言うんだろうな。
実際、ほら、林間合宿の後、爆豪を助けに行った時だよ。
なまえはさ、ガス吸って入院してたろ?
そんでさ、意識戻ったからってお見舞行ったらさ、お前、結構思いっきり俺のこと殴ったよな、しかも顔。
あれ、かなり痛かった。
泣きながらさぁ、なんで危ないことするの、なんで私を置いてくの、ってさ。
最後にはさ、私、皆を守れるくらい強くなりたいとか、俺よりも男らしいこと言ってさ。
鼻水垂れてたけどな。
そんでさ、やっぱり思ったんだよ。
何回でも言うけど、なまえはヒーロー、向いてるんだよ。
泣き虫、結局直んなかったけどな。
でもさ、そんなの、直さなくていいよ。
泣き虫でも、どじでも、それでもいいから。
ただ、なまえが、ただ、いてくれればいい。
俺の隣で、隣じゃなくても、笑っててくれれば、それだけでいいんだよ。
なあ、なまえ。
俺、本気で、本当に、大切なんだよ。
なまえが、大切なんだ。
なまえが、大好きなんだよ。
だから、だからさあ、なまえ。
置いてかないでくれよ。

『ごめんね、鋭次郎。』

泣き虫なくせに泣かないで、苦しそうに、困ったように、諦めたように笑ったなまえの顔が、目に焼きついて離れなかった。

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