番外編
□気になって仕方がない
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名無しを連れ帰ってきた日の夜、自室で妙にそわそわしながら跡部はソファに座り自身が好んでいる洋書を読んでいた。
が、やはり隣の部屋で今頃すやすやと気持ち良く寝ているであろう名無しが気になって気になって本を落ち着いて読んではいられなかった。
「チッ…何で俺様が眠れねえ状態になってんだよ。普通逆だろ逆」
「失礼致します坊っちゃま」
「ミカエルじゃねえか。どうした」
「いえ、もう夜分遅い時間にも関わらず坊っちゃまのお部屋の電気が点いていたので少々気になりまして」
「そうだったのか。心配掛けて悪かったなミカエル」
「とんでもございません。それでは私はこれで…」
「ちょっと待て」
「はい」
「名っ…」
「名?」
「名無しの部屋はその…確認しに行ったか」
「名無し様のお部屋へ?はい、坊っちゃまのお部屋に参る前にお伺いしましたが」
「それであいつはよく寝ていたか」
「はい。それはもう安心しきったようによくお眠りになられておりましたよ」
「そうか。それならいい」
いいと言いつつも何故か落ち着かない跡部にミカエルは察するものがあったのかこれは珍しいものを見たといわんばかりに思わずクスクスと笑ってしまった。
「坊っちゃま」
「なんだよ」
「差し出がましい事を申しますがそのようにそわそわされる位でしたら坊っちゃま本人が名無し様のご様子を見てらしたらいかがですか」
「おっ…俺が何であいつの部屋に行かなきゃならねえんだよっ。別に何1つ気になってなんかねえよ」
「ああ、そういえば…」
「今度はなんなんだ」
「先程名無し様が寝言で坊っちゃまのお名前を呟いていらっしゃいましたよ。それはもうお可愛らしい声で“景吾君”と」
その話を聞いた跡部は目を見張りながらみるみるうちに顔を赤く染め上げていき暫く固まってしまっていたがやがてそんな自分を誤魔化すかのようにふんと鼻を鳴らしたあとソファから立ち上がったのでミカエルも跡部の名誉とプライドを守る為わざとらしく首を傾げてみせた。
「おや?どちらに行かれるのですか」
「ハッ…寝言で俺様の名前言っちまう位この俺様の美貌に酔わされたんなら責任とって行ってやらなきゃ男が廃んだろ」
「流石坊っちゃまです。名無し様もさぞお喜びになられると思います」
そうだろうといわんばかりに跡部は大きく頷いたあと部屋をあとにしていき、それを見ていたミカエルは声が洩れてしまわないように口元を手で覆いながら再び可笑しそうにクスクスと笑ってしまった。
「坊っちゃまはいくつになっても純粋な坊っちゃまのままなのですね。名無し様と上手くいくようミカエルもささやかながらご協力させて頂きますので先程の多少の嘘はお許し下さい」
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