その少女、転生者につき

□第三話 【ゲーム】
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赤司とは年が違うので、幼稚園で一緒に遊ぶことは滅多にできない。
だからこそ、私達は幼稚園に通っているのであり、この“午後”の遊びの時間を大事にしているのだ。


「……聞いているのか、ユウ」

『あ、ごめん!聞いてなかった!何の話だっけ?』

「ふはっ。お前はそれだから駄目なんだよ。人の話はちゃんと聞けってお前の母さんに習わなかったのか?」


と、言っても、そこまで大したことはしていないし、私は何故かいつも怒られるばかりなのだが。

閑話休題。

今日は久しぶりにこの三人でお泊まり会なるものをすることになった。
経緯としては、うちの親が二人の両親それぞれと仲良くなって会わせた結果意気投合し、その勢いで“私の両親が”提案してから二人の両親を納得させたらしい。

何気にハイスペックなうちの両親。
二人は私と私の両親がいなかったら、恐らく幼少期に顔を見せることすらしていないのだろう。
こういう所で、私は自分と言う異質な存在を再確認するのだ。

ちなみにだが、そんなハイスペックな父はゲーム会社の社長である。
社長である筈なのに、______こないだあった王○事件もあったせいか______自分も狙われないかと日々ビビりが増しているのだが……今は関係の無い事だ。話を戻そう。

そんなこんなで父はよく新しいゲームを持ち帰ってきては、私や二人に試しプレーをさせる。
子どもの意見を取り入れて、さらに精進したいんだそう。
私たちは普通の子どもでは無いから、サンプルにはならないのでは……とも思ったのだが、
実はサンプル云々は建前であって、本当は私たちに楽しんでもらいたいのだと父は話していた。優しくて良い父親である。へたれだが。

こんな経緯を持って、私たちは今ゲームの試運転という名の遊びをしているのだ。
あ、言うのを忘れるところだったのだが、カセットはかな有名な某配管工スゴロクだ。
……維持でも名前は出さん。

で、只今の戦況報告をいたしますと……


『所でマコ。君はどうして10しか出ないの?』

「坊やだからだよ」

『いやいや普通坊やがんな事できるわけ無いでしょーが!!
……そして征よ。君はどうして1しかでないの』

「俺は、何でも一番しか目指してないからね……」

『そんなところまで一にこだわらなくていいよ!』


この二人は普通にプレーができないのかと、疑いたくなるような展開になっています。えぇ。
片やサイコロの目が10しか出ない代わりに運ゲーでは一番悪い結果になるオタマロ、
片やサイコロの目が1しか出ない代わりに運ゲーやカジノでは一番良い結果しか出ないチート。

……どっちもどっち、良いのか悪いのか微妙な結果だ。

私は父が社長なお陰でそれなりに事前の経験はあるはずなのだが……何故か、そのハンデをも通り越してこの二人は試合している。正直ドン引きである。

ちなみに、誰がどのキャラクターなのかを紹介すると、

私は某悲劇の桃姫(仮)、
マコはバナナ愛好家ゴリラ、
征は王道な赤い配管工、
コンピューターは赤配管工擬きニンニク黄色野郎だ。

キャラクター名も出さない。出したら私の何かが終わりそうな気がして……。


『あ、ミニゲームの説明は飛ばすから』

「パ卜ラッツュ、俺もう疲れたよ……」

「立った!フラグが立ったわ!!」


私がせめてもの悪足掻きとしてミニゲームの説明を飛ばすと、
征はお姉さん座りをしながら倒れこんで手を空に翳し、
マコはいきなり立ち上がって何処か遠い目をしながら万歳をした。

正直に言おう。カオスすぎだ。

……しかも、ミニゲームの説明を見ていないにも関わらず、二人は自然に操作をし始め無双を始める。ハンデとは一体何処へ行ったのであろうか。

(以下エンドレス状態)


********

ゲームも終わって、今は最後の結果発表。
結果発表であるので、当然画面には4位から落ちていく例の“アレ”が流れている。

画面を見ながら、私たちは肩を震わせつつ話した。


『ワーコレハムワァァアがカツナー』

「俺、スターを一個も、取れなかったんだが……」

「誰が勝つのか、分かりすぎているだろうこれは……!!」


三者三用の言葉を発しながら、三人とも、腹筋を何とか保たせつつ画面を見る。

ちなみに。

私はゲーム機を握りしめながら何の感情もこもっていない目をしながらゲンドウポーズ擬きをし、
マコは指でゼロの形を作りながらお腹を押さえるようにしてその場に踞り、
征は壁に頭をぶつけながらしゃがみこんでいるのが全体の図面だ。

部屋は、所々戦でもあったかのようにグチャグチャになっており、壁や床には思いっきり殴られたような跡があった。

この現状を、一言で表すとするならばまさに“カオス”だろう。しかも、それらを体現している子どもの年齢は5、6歳であることがさらにシュール感を増させる要因となっている。

そんなこんなでカオスながらに画面を見ていると、一番最初に落ちてしまったのは……何を隠そうムワ男であった。


『ムワァァアアアアアアアアア!!』

「ちょっと待て、お前っ、それは卑怯だろうっ……っ!!」

「笑いがっ……とまんねぇ!何だこれ、何だこれ!」


先程までゲーム機を握りしめていた私はゲーム機を放り投げて両手で天を仰ぎ絶叫、
それを見て征が地面に墜落し痙攣、
さらにこの光景を見ているマコが腹を押さえながらゴロゴロと横になった状態で横転。

一々反応が大きいだとか、アクションが大きすぎてシュール過ぎるだとかの次元はもうとうに越した。
そう。……これは、私達の、闘いなのである!!(訳・もうワケわかんないからテンション上げる)

そんな、何とも言えない意思を燃やしたままに私達は再度画面を見た。

……だがしかし、画面に残っているのは、何故かもう赤いヒゲ男一人のみ。

私達は、どうやら4位と1位以外を見逃してしまったようだ。
その事実を知ってしまった三人は、体制を崩した。


『ガッテム……!』

「あぁ……そうか。俺は……至らなかったのか」

「分かってたけど、分かってたけどっ!くっそ!」


私は自身の順位が分からなかったことの絶望を。
マコは一位になれなかった事の開き直りを。
征は分かりきった事の再認識による笑いを。
それぞれ体勢を崩した理由は違えども、その体勢は皆同じだった。

……まだ小さい子どもが地面にうつ伏せになっている光景は、その経緯を知らない限りは和やかな物に見えるだろう。
私たちは、ゲームが終わったあともその日はずっとその体勢のままであった。


私の母が私達を呼びに来たときに物凄く微妙そうな顔をしていたのは、また別の話。

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