その少女、転生者につき

□第二話 【片鱗】
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私が通っているのはお坊っちゃんやお嬢ちゃんが通うような幼稚園だ。
前世では普通に公立の保育園であった為、まずそこが頭を抱えたい要因であるのだが……。
今もうそこに問題はない。

話は変わるが、この幼稚園の子達は酷く現実的でとてもマせている。
家族ごっこの現実さ等がなによりその象徴だ。

どれくらい凄いかと言うと、不倫や離婚、女遊びをキッチリ再現するごっこが何処にあるかと大声で叫びたい位の凄さである。
そんなおかげで私は元の人格をフルに出しても浮かずにすんだんたけど……。


「マコ。……また本読んでるの?
周りとの付き合いを大事にしないと、将来生きてけないって!」

「うるさい。今良いところだから後にして」


それにしても、これが“あの”花宮真とは。
にわかに信じがたい事実だ。

今私の目の前にいる“花宮真”は、読書好きの隅っこ少年。
マせている園児達に飲み込めていない感じのシャイな少年っぽいオーラを出す園児である。
これが本当に花宮なのかと、何回自問自答を繰り返したことか。

私はそんな彼に、いつも『社会で生きていく為の外面の大事さ』を教えているのだが……この子、私の話を聞いちゃいない。

私も見た目だけは可愛らしい園児。園児に社会を説かれても信用できる訳が無いのは分かっているのだが、ガン無視はやはり心にくる。
これでも、真は私の幼馴染みなのだから。


「だってさ、マコ。今そうやって皆と仲良くならなかったら、絶対後になって信用とかで揉め事起こっても誰も庇護してくれないよー。
まぁ確かに私もあの子達の事はあまり好きではないけどさ。

でも、私たちは財閥の跡取りである以上、付き合いたくなくても付き合わなきゃいけない人は出てくる訳よ。
今からそーやって気後れだけで付き合いを諦めていて、これからどーやって生きていくの?

あのね、マコちゃん。
私たちはさ、自由が効く代わりにその辺りはキチンとしなくちゃいけないんだ。
まぁ、所詮『代償』って奴だね。
私と征だけじゃどーにもならない案件はあるんだ。どんなに嫌でも苦手でも、せめて表面上だけでも取り繕って“仲良く”なる方法は今身に付けとかなきゃ!」

「……。」



この言葉は、長文は、幾ら私の年代の子がマせていたとしても異常であるだろう。
だが、周りがマセているせいで誰も気にも止めない。
ニコニコと愛想の良い人懐っこい笑みを張り付けている私は、真が少し此方を見てくれたということに安堵した。

実際に、ここには有力な財閥の跡取りが多くいる。
今から仲良くしておけば確実に後々の為になること間違いなしだろう。
原作ではあんなに猫被りの上手かった花宮が、こんな所で種を潰すなど、勿体無さすぎる。

なーんて。かなり自分勝手な考えをしながらも、私はさも自分は純粋であるかのような瞳を取り繕って真の事をジッと見つめた。

私が見つめていることに気づいた彼は、また同じように私の目を見つめ返してくる。  
その瞳は、何処までも黒い。
まるで、誰もが触れることを躊躇うような闇をおおっているような、そんな黒。
それはまるで、自分も、此方の事も拒絶しているかのように思えてしまう。
だけど、そんな瞳以上に怖いものを“前世”で何度も見てきた私にとって、その瞳が持つ不気味さは屁でもないと思う。
私は怯みもせずその目線を受け止めた。

数秒、互いの瞳が交わる。

視線を交わしたことで、彼は何を思ったのか。
そんなの彼じゃないから私は浮かずに分からないが、マコはさっきまでよんでいた本を閉じてため息を吐いた。


「……お前がそこまで言うのなら、まぁやってみる価値はあるんだろうな」


呆れと期待を含んだ声を発したマコは、私の方が身長が上なおかげで自然となる上目使いをしながらシャツの裾をクイッと引っ張った。
その仕草はまさに年相応なあざといもので、私は一瞬叫びたい衝動に駈られる。

が、流石に私はまだ園児。今ここで叫んだらどう考えても変人あつかいされるのだろう。それはかなり避けたい。

なので、私は掌に爪を食い込ませて本能(?)を押さえながらマコと一緒に、今から遊ぼうとしている集団へ人懐っこい年相応の笑みを浮かべて突っ込んだ。

思えば、マコが猫かぶりを始めたのはこれがきっかけだったのかもしれない。
でも、私は決してマコを染めたことに反省も後悔もしないだろうね。だって、本当の事しかいってないし、マコが猫被ってないなんて違和感があり過ぎて気持ち悪いから。

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