その少女、転生者につき
□第一話 【認識】
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どうやら私は、所詮『前世』と呼ばれるべきその記憶と人格をそのまま新しい人生に引き継いでしまったようだ。
この現象を夢小説的に言うのならば、確か『転生』と言ったか。
夢小説等での『転生』とは、前世の記憶と人格を持ったまま“漫画”の世界で新しい人生を送るという一種のジャンルであった筈。
だから、もしその『転生』とやらを今私が体験しているのならば、恐らくこの世界は“黒子のバスケ”の世界であり、私はその転生とやらをしてしまった事にもなるのだろう。
目の前にいる、眉の特直的な男の子と、赤い髪がきれいな男の子を見ながら、私は少し物思いに耽った。
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目や耳の感覚を完璧に取り戻すまでに5ヶ月。
下の世話などは流石に恥じらいがあったが、それでも夜泣きをしないイイコに育つことができたと思う。
だがしかし、私は充実した満足を知ってしまっているため、その実物凄く暇であった。
そんなときは何とかして幼児の体でもできる遊びをひたすら探した私。その時はとてつもない想像力が必要だったとここに書き記しておこう。
……まぁ、今はその想像力で何とかしようとする遊びの最中だったのだが。
先程(とても美人な今世の)母が連れてきた子供たちを見て、それまでしていた遊び等、全て頭から吹き飛んでしまった。
その二人の子供は、似ていた。
私の記憶違いでないのならば。
その2人は、まだまだ幼さはあるが、私の知っている(というか、寧ろ大好きすぎて夢小説等に手を出したレベルの)漫画に出てきていた二人の登場人物に、とても似ていた。
一人の方は、特徴的な麿眉に将来絶対美人になりそうな、整ったパーツで揃った顔をしている男の子。
そしてもう一人は、明るくて綺麗な赤髪にこれまた将来有望そうな顔つきの男の子。
……というか、ここまで特徴がここまで似ていたらもはや本人ではないかと思ってしまう。
寧ろ思わない黒バスファンはにわかか鈍感すぎる者しかいないのではないんだろうか。
そんな言葉を喋れない私の考えなど露知らず、母が二人をもってこちらに近づいてきた。
「ユウちゃん。
この子達は、これから貴方が仲良くしていくべき子達よ。
無理は言わないけど……仲良くなってくれると嬉しいわね〜」
母は、穏やかな顔をしながら二人の子を私の側に置いた。
うん。まぁさっきも言った通り、二人の子供は今とても気になる。
でも、実を言うと私はそれよりもずっと前から気になっていることがひとつあった。
(お母さん、今絶対口調とかを周りにバレないようにしてるよね。
普段はあんなに男勝りな口調なのにいきなり普通の女性みたいな口調されると違和感凄い。
……っていうか、凄すぎて最早一種のホラーだとしか思えないから早く止めてほしいかな!?)
うちの母は口調が悪く、男勝りだ。
だからこそこの女性らしい口調は、この子供たちの親がいるからという理由で無理してやっているのだと推測できる。
まぁ、努力は確かに凄いと思う。
恐らく初見では一切分からないような、俳優かと見間違えるほどの演技力だ。そこは良いのだが……。
子どもたちの親と思わしき二人の女性が二人とも肩震わせている所を見るに、その努力は無駄な方向へ向かってしまっているんだろうと思う。
私から見ても逆に怖いので、正直言って今すぐ元に戻ってほしい。
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あの出会いからもう四・五年は経ち、私もある程度は普通に喋れるようになってきた。
この二人も勿論話せるようになったし、まぁ二人が周りよりも賢くて浮いているのはまだ理解はできる。
だが、私が納得したくなかったのはこの二人の名前。
“花宮真”と“赤司征十郎”。
分かってはいたし、ある程度察してはいた。
でも、その事に気づいて理解してしまうのとそれとはかなり違うと思うのだ。
『前世』の記憶をしっかり持つ私にとって馴染みの深すぎるその名前は、二人の容姿と共に私の脳内に訴えてくる。
ここは、『黒子のバスケ』という漫画の中の世界のパラレルワールドなのだ。と。