その少女、転生者につき

□プロローグ
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唐突だが、私はもう死んでしまうそうだ。
死因は、がん。幼くしてかかったがんが悪化してしまい、もう何をやっても助からないんだそう。

だから今、
私は、家族にそんな私の最後を看取られている。

酸素マスクをしていても、もう声はできないし呼吸もできない。
辛うじて耳は聞こえるが、言ってしまえばそれだけである。
意識がしっかりしている時点で、私はまだ恵まれていたんだろう。

だけど。

私は、恵まれていても、それよりもせめて声だけでも出てほしいと思う。
だって、家族の声が聞こえるのに私はその言葉に返せないのは辛いことこの上無いのだから。


「佑香!まだアンタは若いじゃない!どうして…どうして!!」


そうやって私から少し離れたところで崩れ落ちているのは、お母さん。

そうだ。私はまだ若い。けれど、こうして皆が来てくれるだけで私は恵まれていると感じているんだ。
今の私はそれで充分なんだよ。


「佑香。まだ、まだ死ぬなよ…!」

そう言って、普段見せない情けない顔をしながら私の手を取っているのは、お父さん。

ごめんね。もう、その願いは届かないんだと思う。
普段冷静なお父さんが取り乱すなんて、私は一度も見たことがなかったよ。
でも、今は笑ってほしいかな。だって、最後に見るお父さんの顔がこんな顔なんて嫌だしね。


「姉ちゃん…!!」


お父さんとは反対側で私の手をとっているのは、愛しき我が弟。

ほら、泣くなよ。
男なら、女を悲しませるのはご法度だろう。
だからさ。
笑えよ。普段からお前カッコ悪い所があったのに、今のお前はそれよりもカッコ悪いんだからさ。

 
「…お姉ちゃん。ちゃんと墓にはお姉ちゃんが好きな黒バスの漫画持ってくから。
だから、成仏できないなんてことにはならないでね」


私の耳元で、泣き声を我慢しながらそう言うのは、我が愛しき妹。

その言葉は君らしいよ。
そういやお前はいつも、姉ちゃんへの辺りが強かったよな。
抜けているオタクな姉ちゃんはきっと扱いにくかったろうに。よく、好きでいてくれたよ。
こんなに可愛い妹の気遣いを感じているのに、こんなにも幸せなのに、成仏できない訳が無いじゃないか。


「佑香。何だかんだ言って、お前との日常は楽しかったぜ」


私の顔に手を当てながら呟くのは、私の最愛の彼氏。

嗚呼、私だってずっと楽しかった。
オタク話をして、世間話をして、日常話をして。
……思えば話だけしかしていなかったしていた気がするけれど、一応はちゃんとお互いに愛し合っていたよな。

あぁ、私はこんなにも恵まれている。

私の声はもう、届かないけれど。
“ごめんなさい”なんか言ってやらない。
その代わりに。

ずっと一緒にいてくれて。

こんな私を愛してくれて。




____ありがとう_____
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