勿忘草

□壱:名も無き村
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どれ程歩いたのだろう。
息も切れ切れに、ひたすらに歩き続けていた。
細道の石に座ると、小十郎は筒を持って立ち上がった。

『どうしたの?』
「お水を汲んできます」
『分かった。気を付けて…』
「承知」

ふと足を見ると、擦り傷が出来ていた。
懐から布を出して、土を落としている時、丁度小十郎が戻ってきた。
足を見て顔を顰めてしまった。

「…お足が…」
『…平気よ。これくらい、何ともないわ』
「何処かで草履を買いましょう。」
『新しい着物も欲しいかな』
「では、新しいお召し物も。」
『上質な物じゃなくて良いの。私達は目立っては駄目よ。』
「…」
『小十郎、貴方も新しい物を買うのよ』
「…分かりました」

私達は、あまりに見るに耐えない姿だろう。
沈黙が流れた時、草むらから編笠を被った男が現れた。
小十郎は刀に手を掛け、私も警戒した。
その男から、懐かしい声が放たれた。

「おおっと!! 斬ったりしないでくれよ?」
「…その声…」
『…徳川、様?』
「……何故テメェが此処に…」
「この先に、小さな村があるんだ。」
「『村…?』」

編笠を上げて、優しい笑みを浮かべて言った徳川様を、小十郎は険しい顔をしてただ見つめていた。
結局、一緒に着いて行く事に決めた。



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