奥州

□傷口は二人で治して
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どれくらい時が過ぎただろうか。
奥州の平定に乗り出してからというもの、平和な日常を送りつつも時折起こる戦。
最近は政宗様のお帰りを待つ事が多くなっていた私も、今回の戦は出立するよう命が下った。

戦中食を配ったり負傷兵の手当てをしたりと忙しく動いている間に日没を迎え、今は皆さん陣内に戻ってこられている。

「政宗様、どうぞ。」

「…ああ。」

小十郎様と成実様から報告を受けている政宗様は私を一瞥した後、差し出したおむすびに手を伸ばし一口頬張った。
そして僅かに表情を崩した政宗様を見て少しだけ安心し、邪魔にならないよう下がろうとした所で見張り番の方の張り詰めた声を聞き、陣の外が騒がしくなる。

「夜襲だー!」

「!!!」

既に近くまで来ているのか外では刀を交える音は勿論、叫び声や断末魔のような声すらもがこちらまで聞こえてきていた。

(っ、…怖い…)

恐怖で足が竦む。逃げようにもどうすればいいか分からず立ち尽くしていると腕を強い力で引っ張られた。

「っ…」

「名無しさんっ、しっかりしろ!」

「政宗様っ…」

「慌てるな!後方に引いて陣を立て直せ!成実、食い止めろ!」

政宗様は的確に指示を出しながら私を連れて後方へ下がっていく。
そして敵方の夜襲は失敗に終わり、勢いをつけた伊達軍は勝利を収めたのだった。



「まさか彼処で夜襲が来るとは思わなかったなー…」

帰り、その日は雨が降っていた。
けれど勝ち戦ともあれば雨など同左もないこと。皆の表情は晴れ晴れとしている。

近くにいた成実様はしみじみとあの夜のことを呟いて、私を振り返った。

(政宗様がいなかったらどうなってたか…)

そう思うとまた恐怖が蘇り、身体が震えそうになるのを抑え答えるようにこくりと頷くと、成実様が心配そうに私を見つめた。

「大丈夫か?」

「…はい。でも、政宗様に助けていただかなければ、私は今ここにいられなかったかもしれません。」

「あの時の政宗は凄かったな、一目散に名無しさんの所に駆けつけてさ。」

「そうだったんですか…?私何も知らなく…っ?…」

木々の間から何かが日に反射したのか、眩しさに目を細める。
しかしそれも一瞬の出来事で、ふと疑問に思い其方を見た途端心臓が脈打った。

そこに居たのは数人の男達。
こちらではない、何処か一点を睨むように見つめている。

(何…?……っ!)

男達の視線の先に居たのははからずとも、当主である政宗様であった。

「っ、政宗様っ!」

叫び声と同時に放たれた矢。
私の声に反応した政宗様は間一髪でそれを避け、周囲を見渡す。

「政宗様!」

後方にいたはずの小十郎様も騒ぎを聞いて駆け付け、普段よりも硬い声で家臣の方々に指示を出し始めた。

しかし、山道という事もあり四方八方から放たれる矢から逃れることは容易くなく、先程まで笑いあっていた方々の姿も減りつつある。
私は成実様に守られるように匿われていたけれど、それでも恐怖に足が竦んだ。

「…最期だ。」

地を這うような声を聞いて咄嗟に少し離れた場所にいた政宗様を振り返る。

(っ、だめ…!)

木々に隠れながらも弓を引く男を視界の端に見ながら、自然と身体が動いた。

「おいっ、名無しさん!」

成実様の焦ったような声が後ろで聞こえる。
けれど、私の足は止まらなかった。

「政宗様っ!」




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