雑記

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恋乱華・真田幸村の場合~接吻~


上田城の庭先で洗濯物を干していた時のこと。

「あっ…幸村様…」

木刀を持って廊下を歩く幸村様を見つけて、呼びかけるわけでもなく呟いた。

(鍛錬かな…後でお茶とどうなっつを作って差し上げよう…)

「ん?」

籠いっぱいの洗濯物の皺を伸ばしながら頬を緩めていると、名を呼んだのが聞こえていたのか不意に幸村様の視線が私に向けられる。

「おはようございます。鍛錬ですか?」

「ああ。日頃の鍛錬が大事だからな。お前は洗濯か?」

「はい、今日はよく晴れていますし、すぐに乾きそうです。」

太陽の光を浴びながら柔らかな風を受けてひらひらと旗めくそれを見つめた幸村様の表情も、どこか晴れやかだ。

「後で甘味をお持ちしますね。」

「そうか、それは楽しみだな!」

「ふふ、ではまた…」

「ああ。」

そうしておひさまと同じように明るく笑った幸村様を見送り、お勤めに戻る。

半刻後、熱々のどうなっつを拵えて幸村様の元に急ぐと、私を見つけた幸村様が大きく手を振って鍛錬の手を止めた。

今日はお一人だったのか他の方は居らず、二人で縁側に腰を下ろす。

「どうぞ。」

「おお、美味そうだな!…ん、美味い!」

「ふふ、良かった。」

私の作ったどうなっつを頬張る幸村様。
その表情を見てふと、私は気になった事があった。

「幸村様の好きなものって、他にもあるんですか?」

「そうだな…好きなものか…。」

「食べ物だけじゃなくても良いんです。幸村様の事がもっと知りたくて。」

「うむ…俺はこの上田の奴らが好きだな!欠かせないのは御屋形様だ。御屋形様は凄いからな。」

「ふふ、はい。」

無邪気な笑顔で上田の方々や信玄様のことを誇らしげに語る幸村様に、私も笑みを浮かべながら聞き入った。

「後はそうだな…お前の作る料理と甘味も大好物だぞ。何を食べても外れが無い、なんでも美味い。」

「ありがとうございます…これからも沢山作りますね!」

幸村様に褒められたことが嬉しくて、手放しで喜ぶ私を見た幸村様は、そう言ったあと急に曖昧な表情で口を濁す。

「ええと…どうかなさいましたか?」

「いや…お、俺はだな…今まで色々言ったが…。」

「はい。」

「…お前の事が…一番…す、す、す…好きなんだ!」

「……!」

途端に真っ赤になってしまった幸村様を見て、全身が火をつけたように熱くなるのが分かった。

「す、すまん…急にこんな事を言ってしまって…」

「いえ…あの、私、も…好き、です。」

「…はは…やはり、照れ臭いな。」

「ふふ、そうですね。でも…嬉しいです。」

「……?」

「一番って言ってくれて。私の一番も、幸村様なので…っん…」

お互いに真っ赤になったまま、自身の気持ちを吐露すると不意に唇に熱が重なる。
一瞬だけ…触れるだけの口付けが幸村様の不器用さと愛情の深さを示しているような気がして、なんだか擽ったい気持ちになった。

「やはり俺は…お前を前にすると、どうも自制が効かなくなる様だ。すまん。」

「いえ…」

誰もいない縁側に凱風が吹き私達を柔らかく包み込んでいく。
二人だけの時間、二人だけで笑い合う時間がとても心地が良かった。

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