奥州
□謝罪は極上の接吻
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それはよく晴れた日の事だった。
「では出てきますね。」
「ああ。気を付けて行け。」
「はい。」
政宗様から注文していた物を城下まで受け取りに行くよう告げられ私は二つ返事で腰を上げた。
政宗様は一つ頷くと政務に戻られ、私も準備の為退室させていただく。
「んー、いいお天気!」
門の外でうーんと背伸びをして初夏の香りを吸い込むと軽快な足取りで城下へと向かった。
道の端には春から夏にかけて咲く花々達が其処彼処に咲いて天を見上げている。
寒さも薄らいだ奥州にも漸く夏の訪れを感じさせるようだ。
米沢城下は今日も色んな人達で賑わっていて彼方此方から威勢の良い声が聞こえる。
(そういえば新しく簪屋が出来たとか…。今度梅子さん達と行ってみようかな…)
そんな事を思いながら城下の町を歩き、目的地に着いたのはすぐの事だった。
城下の中でも一際小さな書物屋は例に習わず日ノ本の物から南蛮の物まで幅広く扱っていて、特にこの店は政宗様のお気に入りのようだ。
「ごめんください。遣いの者ですが…」
「いらっしゃいませ。ああ、ちょっとお待ちくださいね。」
にこやかな笑みを浮かべた店主はそう言って約束の書物数点を風呂敷に包んでくださる。
夫婦で営んでいるらしいその店にはあまり客はおらず、外の喧騒に比べて静かで落ち着いた雰囲気。
会計をする間、私は優しく声をかけてくださる奥さんとたわいない話で盛り上がったのだった。
「ではそろそろ…。」
「ええ、これからもご贔屓にお願いしますね。」
「はい。」
いつの間にか店に来て四半刻程の時間が過ぎていたらしい。
お務めの途中だと言う事を思い出し店を出ると同時に右肩に痛みを感じてそのまま尻もちをついてしまった。
「っ、いた…」
「急に出てくんじゃねえ!危ねぇだろ!」
苛立ちを含んだ声で睨まれて、驚いているうちにその男性は走っていってしまう。
確実に相手がこの人混みで走ってきたのが問題であったのにも関わらず暴言と共に舌打ちまで残していった男性に胸がもやもやする。
腹立たしい気持ちを押し殺すように唇を噛むと先程の書物屋の奥さんが駆け寄ってきた。
「大丈夫かい?!」
「はい。人とぶつかってしまって。」
「乱暴な人もいるからね…怪我は無い?」
「はい、多分…。…っ!」
手を差し伸べてくれた奥さんの手を借りて足に力を入れると右の足首に激痛が走る。
思わず顔を顰め足を庇うけれどずきずきと痺れるような痛みが続いた。
「足をくじいたみたいだね…歩けるかい?」
「はい…すみません…」
「ほら、荷物は無事みたいだよ。少しうちで休んでもいいんだよ?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」
「そうかい?気を付けて帰りなよ。」
正直な所足の痛みはかなりのもので重心をかけると鋭い痛みが走る。
けれど帰城してからの仕事もありあまり遅くなると心配をかけてしまう為、奥さんの言葉を有難いと思いつつも遠慮させてもらった。
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