奥州

□仕事人間の末路
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「小十郎様、書状が届いていましたよ。」

「ああ、ありがとう。」

寒さも厳しくなり息を吐くと息が真っ白になる。私はこの間小十郎様に買っていただいた羽織に身を包み、米沢から来た書状を渡す為に来た執務室で、用意していたお茶と甘味を出しながら目の前で真剣な表情を見せる夫を見つめた。

(今日もお忙しそう…)

小十郎様は先刻の勝ち戦の戦後処理や、政宗様や近隣国からの書状への返事など、年末が近づくにつれ毎日忙しそうに仕事に励んでいる。

私も妻として何か支えになりたいとは思うものの、なかなかそれは見つからずこうしてお茶を出したりお部屋の掃除をしたりと、仕事の邪魔にならないように動くのが精一杯だった。

「…どうした?」

「え…?」

「いや、ずっと見てるから。俺の顔に何か付いているか?」

「いえ…少し考え事をしていて。」

「そうか。一人で悩まないで、何かあれば俺に言いなさい。」

「はい、ありがとうございます…」

小十郎様は優しい笑みを浮かべながら私の頭にぽん、と手を置くと視線を書状に向ける。

(また心配させちゃったな…)

私はただでさえ忙しい小十郎様に自分の事で心配をかけてしまった事を悔やみながら、これ以上仕事の邪魔をしないよう、腰を上げたのだった。



数日後、私は未だ灯りの灯る執務室を目に悩んでいた。

(まだお仕事終わらないのかな…)

小十郎様は時折食事も睡眠も摂らずに仕事をする節があり、私が小姓になって間もない時には喧嘩のようになってしまった事もある程、自分の事には無頓着で…。

最近は食事もちゃんと摂ってくれて、夜は褥を共にする事が当たり前になっていた為、夜遅くまで仕事をし続ける小十郎様の事が心配でならなかった。

(何でも自分お一人でしようとされるのは、流石にもう治らないよね…)

外はもう真っ暗で既に月が真上にまで来ている。
私は熱めに淹れたお茶を手に、声を掛けて襖を開けた。

「小十郎様、少し休憩されてはどうですか?」

「ああ…そうだな。」

私の問に対して相槌を打った小十郎様だったけれど、文机に向かい筆を動かす動作は止まる気配は無い。

「…小十郎様。」

「ん?…ああ、すまない。これが終わったら戴くよ。もう遅いから名無しさんは休んでいなさい。」

小十郎様は微笑みながらそう言うと、文机に目を落とし真剣な目で筆を動かし始める。湯気の立つお茶が冷えてしまうのは時間の問題かも…と落胆しつつ、無くならない横に積まれた書状と書物の山を見てこっそり嘆息するのだった。

「…分かりました。無理はなさらないでくださいね。寒いので風邪を引かないで…」

「ああ。大丈夫だよ。おやすみ。」

「…おやすみなさい。」

言葉を遮るように紡がれた言葉に、私は言いたかった言葉を飲み込んで笑みを浮かべる。
襖を開けた瞬間肌を撫でる冷たい風。執務室の温度が下がらないように出来るだけ早く襖を閉め、夫婦の部屋へと足を向けた。




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