奥州
□髪と季節
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葉が次々と紅く染まり、秋の気配を感じさせる。米沢に来てから、どれだけの季節を巡っただろうか。
城内に舞い落ちる紅葉を一枚手に取り、大事に紙に挟んだ。
「…少し、寒いなぁ…」
暑かった夏は過ぎ行き、また季節は巡る。日が落ちた後の米沢は私には少し肌寒く感じた。
自分を抱き締める様にして腕を摩る。すると、後ろから肩に何かを掛けられた。
「わっ…政宗様…!」
「寒いか?」
ふわりと掛けられたそれは政宗様が普段使われている羽織。先程まで使用していたのだろう、政宗様の香りと暖かさが私を安心させた。
「いえ…政宗様のお陰で暖かいです。」
「…そうか。」
政宗様は私の隣に腰掛け、私と同じように舞い散る紅葉を見上げる。
「もう、秋だな…」
「そうですね。季節が変わるのは早いものです。」
「ああ…。」
私と政宗様の間に沈黙が落ちた。
けれど、沈黙が怖かったあの頃と比べて、それすらも愛おしいと思える様に成る程、私と政宗様の関係が長く続いている事を表しているようで、それが嬉しかった。
「ふふ。」
「…なんだ。」
「いえ。…幸せです。」
「そうか。…俺も、幸せだ。」
政宗様の手が私の髪を梳く。そのまま毛先迄滑らせるとくるくると遊んだ。
「政宗様って、私の髪、好きなんですか?」
「…そうなのかもしれないな。」
「ふふ、長い方が好きですか?」
「そうだな…だが、名無しさんならどんな髪型でも良く似合う。」
そう言いながら口元を緩めた政宗様。私が此処へ来た時は、こんな表情を見る事は出来ないと思っていた。それが今、此処に有る。
「じゃあ、もう少し伸ばしますね。」
「名無しさんは、長い方が好きなのか?」
「そういう訳では無いですけど…だって、髪が伸びた分が政宗様のお側に居られている期間だと思うと何だか嬉しいじゃないですか。」
「名無しさんは時々、俺が恥ずかしくなる様な事を言うな…」
「えっ…すみませんっ!ええと…ほら、髪を結う時も長い方がっ…」
流石に恥ずかしくなって焦って思い付いた事を口にしていると政宗様の大きな手が私の頬を包む。
それに驚いて口を噤むと政宗様はゆるりと微笑み、私の唇をなぞった。
「どれだけ季節を巡っても、名無しさんを好きな気持ちは変わらない。いや…違うな。日に日に好きだという気持ちが強くなるんだ。」
「政宗様…」
政宗様が啄むように口付けをくれる。
「私も、同じ気持ちです。」
安心した様な政宗様の顔を見て、心の底から愛おしく思った。
そして、私からも口付けを送る。
でもやっぱり少し恥ずかしくて、頬に触れるほどの口付け。
それでも政宗様は優しく微笑んだ。