Fate/stay night

□それぞれの帰還
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夢を見たーー






青空の下、桜の柄が入った綺麗な着物を着た少女がいる






長い栗梅色の髪を風になびかせ、こちらに背を向けている少女






「・・・・・・__」






名を呼んだ






自分が知る、少女の名を呼んだ






静かに振り向いた、少女の栗色の瞳が自分を映す






自分を静かに見つめていた少女が、そっと微笑んだ






大人びて見える、綺麗なその微笑みはーー悲しそうにも見えた






突然、強風が吹き抜けた






そのあまりの強さに、自分は思わず両腕を顔の前に構え、両目を閉じる






風が止み、腕を下ろして両目を開く






場面は相変わらずだが、少女の背後に影が迫っていた






「ーー!ーー!!ーー!?ーーー!!!」






懸命に叫ぶが、声が出ていない






自分の声は、少女には届かない






腕を伸ばす、足を動かそうとする






だがまるで、その場に根を張ったように足は動かない






まるで、縫い付けられたかのように足は動いてはくれない






出ない声を出そうと懸命に叫び、動かない足に代わって必死に腕を伸ばし、手だけでも少女に届かせようとする






だが、そうしようとすればする程、少女と自分との距離が開いていく気がした






「ーーー」






少女の口が、静かに開かれた






名前を、呼ばれた気がした






「・・・・・・____・・・_____」






何かを自分に告げた少女だが、その言葉すらも聞こえはしなかった






なんだ?彼女は一体、自分に何を伝えようとしたんだ?






真後ろにまで迫ってきた影に、少女は背後から貫かれた






胸をひと突きに、貫かれたーー






微笑んだまま言葉を告げ、微笑んだまま後ろから貫かれた






薄く目が開かれ、また自分を視界に捉える少女





今度こそ悲しそうに微笑んだ少女の栗色の瞳から、光がちらりと見えた






それは少女の頬を伝う






なぜ泣くのか?






なぜ涙を流すのか?






自分にはわからない






あの少女を、自分は知っている






死を迎えるあの少女を、自分は護りたかった






なのにーー






なのにーー






なのに、なぜこうなった?










果たしてこれはーー誰が見ている夢なのだろうか?
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