Fate/stay night

□それぞれの帰還
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ロード・エルメロイU世






エルメロイ「・・・・・・本当にいいのか?日本に戻って」



美命「折角の誘いだし。久し振りに会いたい気もしてたから」



エルメロイ「・・・・・・」



長い栗梅色の髪を、左耳の下でひとまとめにしている目の前の少女・八月一日美命が言った



ベッドに腰掛けている彼女は、声と記憶を頼りに私を見上げるようにして顔を上げている



声と記憶を頼りに?

なぜそう言うのか?



彼女の両目が、包帯で覆われているからだ



1年前、ここイギリスで八月一日家の3人家族は事故に遭った



彼女の両親ーー八月一日昂祢と八月一日美咲は、その事故で亡くなった



一人娘の美命は、一命は取り留めたものの、両目が見えなくなった



心も身体も暗闇に閉じ込められた美命を、私が面倒を見ることにした



彼女の母親・美咲には前に世話になったしな



私は美咲に何も返せなかった



美咲の忘れ形見を、見捨てたら駄目だと瞬時に思った



だが、この1年間は大変だった



手術をすれば目は見えるようになる、そう医者からは言われた



しかしなぜか美命は拒んだ



まあ、成功するかは五分だと言われれば、恐怖心が勝るのも無理はない






「信じるって事はね、時には何よりも大切なのよ」






それはいつだったか、以前に美咲が私に言った言葉だった



同じ言葉を、私は美命にぶつけた



手術は成功する、目は必ず見えるようになる、そう自分が信じなくてどうするーーと



信じる事は、時には何よりも大切なのだーーと



美命は手術を受けた



手術は成功だった



これは最近言われたのだが、包帯も近いうちにとれるそうだ



そんな時だった



日本にいる美命の幼馴染みから、一度戻って来ないかと連絡が来たのは



美命が事故に遭い、両親が亡くなり、手術は成功に終わった



落ち着いたのを見計らって誘ってきたようだ



美命「・・・エル?・・・エル!・・・ウェイバー!」



エルメロイ「!・・・ああ、すまない。ちゃんとここにいる」



美命「【ホッ】良かった・・・」



「エルメロイU世」、と呼ぶのは長いから嫌だと断られた



「ロード」と呼ぶのも違和感があるからと、エルメロイを略されて「エル」と呼ばれている



勿論、そんな風に私を呼ぶのは今となっては彼女だけだ



周りに誰もいない時に限って、彼女も美咲も私を「ウェイバー」と呼ぶ事が多々あった



いや、美命に関しては今もだ



私が前に使っていた、私の本名とも言える名を呼ぶ



「ウェイバー・ベルベット」の名を



美命「どうせまた要らない心配、してたんでしょ?」



エルメロイ「お前をひとり日本に行かせる事の、どこが要らない心配だと言えるのだ?」



美命「大丈夫だよ。空港にはあいつが迎えに来てくれるって言ってたし。それとも、エルも日本までついて来る?」



エルメロイ「お断りだ」



美命「言うと思った」



本当はついて行きたい所だが、美命がそれを許さないだろう



変な所で頑固なのは、美咲そっくりだ



美命は母親似だ



特に目と顔付きがそっくりだ



性格は・・・・・・誰に似たのかと聞きたくなる程、あまりあの2人には似ていないがな



ああ、鈍感な所は美咲に似ているか



お人好しというか、お節介というか・・・そこは両親共にそうだったから、どちらにも似たんだろう



真面目だが、美咲のような天然さはない



お人好しでもお節介でもあるが、度が過ぎる程ではない



・・・・・・いや、あの2人に似ていなくもない・・・か?



昂祢と美咲を掛けて割る2をしたぐらいだろうか?



美命「エル?今、なんか変なこと考えてなかった?」



エルメロイ「・・・いや、気のせいだ」



ったく、相変わらず勘がいい・・・!



エルメロイ「・・・・・・空港までは送る」



美命「別に平気なのに」



エルメロイ「そう言う時ほど、お前が大丈夫じゃなかった事が何度あったと思う?」



美命「・・・・・・」



図星を突かれた美命の顔が、斜め下に下がった



そうでした、という渋々ながらの肯定の意味だ



この1年間、目が見えないというのに無茶ばかりする美命を見てきた



彼女のそれには、さすがの私も怒りを通り越えて呆れ返っている



それでも私が美命を見放さないのは、美咲の娘だからだ



勿論それもある



だがこのイギリスでーー時計塔で再会してからも、私を身内のように想い、接してくれた彼女達に感謝しているからでもある



幼い頃の美命は、人見知りが勝ってしまいなかなか会話にはならなかったが



口には出さないが、私にとっては手の掛かる妹のようなものだ



そして、理由はもうひとつーー




















彼女をーー美命を護るためだ
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