Fate/EXTRA CCC

□告白
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聖杯へーームーンセルの中枢へ



私は手を伸ばし、触れた






触れた瞬間、私は聖杯の中にいた



聖杯に吸い込まれた、ううん、溶け込んだと言うのが正しい



分解されるまでの、ほんの僅かな時間



意識は確かにムーンセルに接続し、1つの存在となっている



時間はあまり無い



聖杯へ、願いを伝えなければ(インプットしなければ)ならない






ーー入力完了



ちゃんと伝わった・・・とは思う



これであとは、分解の時を迎えるだけ



・・・・・・なんだけど



その時が不思議と、なかなか来ない



分解されるのなら、正直、早くしてほしいものだと思う



でないとーー



してはいけない後悔を、私はしてしまう



“伝えてはならない”事を、伝えておけば良かったという・・・バカな後悔を



いつからだったか、と聞かれるとわからない



それでも、聖杯戦争のーー戦いの終幕に向かうにつれ、この想いは大きくなっていった



私は普通の人間とは違うのだから・・・・・・伝えてはいけない



??「どうも話が違うぞ。やれやれ、こんな事なら別に来なくてもよかったな」



聞きたかった、でも今ここでは聞きたくなかった声ーー



記憶の無い、未熟な魔術師(ウィザード)である私をマスターとして認めてくれた



私のために最後まで戦ってくれた



私が、決して伝えてはいけない想いを抱いてしまった



私のーー優姫有彩のサーヴァントである彼の声が、この聖杯の中で聞こえた



有彩「・・・・・・アーチャー・・・?バカ・・・・・・バカ!なんで来たの!?」



思わず、声を荒げる



でも彼はーーアーチャーは気にした様子もなく、言葉を返してきた



アーチャー「どうせマスターが消えれば、サーヴァントも消える。次の出番が来るまで退場の身だ。どうあれ消え去る身なら、最後まで手を貸してもいいと思ったのだが。全く、余計な気遣いだったらしい」



聖杯に入り込んで、どうにかして分解までの時間を引き伸ばそうとしたみたいだ



皮肉屋で厭世的で、口を開けば嫌味しか言わない男(ひと)だったけど、根は善人なんだ、このサーヴァントは



そんなところも全部含めて、私は・・・



アーチャー「それにしても、バカは無いと思うのだが・・・・・・って、なぜ泣くんだ!?」



静かに涙を流す私に、珍しく慌てた様子のアーチャーが聞く



有彩「アーチャーの、せいよ・・・・・・アーチャーが・・・こんなとこまで、私を追っ掛けてくるから・・・!」



アーチャー「・・・・・・」



有彩「・・・・・・でも、ちょっと待って。アーチャーがいるって理由だけで、ここまで分解が遅いのもおかしい」



冷静さを強引に取り戻して、私はムーンセルを使って調べた



今の私には容易な事だ



そして見つけたのは、ひとつのデータ



アーチャー「・・・・・・これは君か?カルテのようだが・・・・・・冷凍睡眠だと?」



ある難病患者のカルテだった



記憶障害を引き起こし、最後は死に至る脳病



治療のための理論は示されていたけど、技術的な問題と理論の提唱者がテロ災害で死亡した為、手術は断念



技術の進歩と理論の完成を待つため、当時ようやく実用化された冷凍睡眠(コールドスリープ)装置で患者は保存された



なるほど、と納得した



同じ個体情報を持つ、生きている人間がいるのなら、不正なデータかなんて即断は出来ない



それで分解に遅れが生じているんだ



だけど、そこに眠っている彼女が魔術師(ウィザード)としてこの世界に来たわけじゃない



私はあくまでその人生(データ)の再現体



それが判明し次第、分解される



時間はないだろうけど、メールの1通くらいは送れるかな



無事に脱出できたと思われる、友人であり、私を何度も助けてくれた彼女に向けて・・・



有彩「・・・・・・あーあ、もう」



アーチャー「・・・?」



有彩「後悔なんてなかったのに・・・・・・アーチャーのせいなんだから。絶対に言わないつもりでいたのに、言いたくなっちゃうじゃない」



アーチャー「マスター?」



彼が側にいる・・・たったそれだけの事なのに、嬉しくも悲しくも思う私がいる



本音を、弱音を口にしたくなる私がいる



有彩「・・・・・・私、あなたを好きになっちゃったみたい。アーチャー」



アーチャー「ーー!」



私は今、上手く笑えているのかな?



私は今、伝えてはいけない想いをあなたに告げた



今の私は、あなたにはどう映ってるーー?



私なりの、精一杯の告白をーーあなたはどう受け止め、どう返してくれる?
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