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□彼が私を名前で呼ばない理由
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※円春の直接的な絡みありません(むしろ風+春)
「音無」
 ほら、まただ。キャプテンは基本的に私以外のマネージャーの事は呼び捨てで呼んでいる。鈍感なキャプテンの事だから、恐らく深く考えずにただ適当に呼んでいるだけだとは思うんだけど。私だけ名字で呼ばれるというのは、なんだか妙に気になった。
「秋!サンキュー!」
「夏未、ちょっといいか?」
 休憩時間。私が練習を一旦終えて疲れた身体を休めている皆にドリンクを配っていると、少し離れた場所からキャプテンのふたりを呼ぶ声が聞こえて来た。秋。夏未。キャプテンがそう呼んでいるのを耳にする度に、何故か胸の辺りがもやもやして、心臓がどくりと嫌な音を立てる。....なんでだろう。どうして私はキャプテンが二人の名前を呼んでいるだけで、こんなに不愉快な気持ちになっているんだろうか。秋さんはキャプテンと付き合いが長いし、夏未さんもキャプテンと親しいから別に名前で呼んでも何もおかしな事は無い。一方、私はただの後輩で会話は普通にするけど特別に親しいとは言えない。そう考えると、自分が名字で呼ばれているのも仕方ない気がした。_____それなのに、なんでこんなに私は気に食わないんだろう。なんでこんなに悲しいんだろう。もしかして、私はキャプテンに嫌われてるのかな、なんてネガティブな方向にばかり思考が回る。
「はぁ....」
「音無、溜息なんかついてどうしたんだ?」
「風丸先輩」
 思わず溜息を溢すと風丸先輩がトレードマークのポニーテールを揺らしながら心配そうに声を掛けてくれた。そういえば、風丸先輩はキャプテンと幼馴染だった。キャプテンから何か聞いてたりしてるのかな。
「あの....実は私、キャプテンに嫌われてるのかなって....」
「は!?なんでそう思うんだ!?」
 思いきって悩みをぶつけてみると、風丸先輩は普段のクールな表情が崩れ、目を丸くして素っ頓狂な声を上げた。それに負けじと私も言い分を主張する。
「だ、だってキャプテンったら、マネージャーで私だけ名字で呼ぶんですもん!」
「....ああ、そんなことか....」
 私がそう言うと、風丸先輩は呆れたような表情を見せた。そ、そんなことって!確かに他の人からしたらどうでもいい事かもしれないけど、私は真剣に悩んでるのに!!
「風丸先輩、ひど_____」
「円堂は好きな子には照れて逆に名前で呼べなくなるからなぁ....まあ気にするなよ、嫌ってるわけじゃないからさ」
 風丸先輩に文句を言おうと開いた口は、結局最後まで言葉にはならなかった。それ以上に、あまりにも衝撃的な台詞を風丸先輩から聞かされたから。
「風丸先輩....そっ、それって....キャプテンが私の事、すっ、好きってことですか....?」
「.....あっ」
 恐る恐る私がそう訊ねると、そこでようやく風丸先輩は自分の失言に気付いたみたいだった。しまった、とばかりに風丸先輩の端正に整った顔立ちが引き攣る。
「わっ、悪い音無!聞かなかったことにしてくれ!!」
「あっ!ちょっと!」
 風丸先輩はそう言うと、逃げるようにして練習に戻ってしまった。聞かなかったことに、なんて無理ですよ。だってキャプテンが私だけを名字で呼ぶ理由が嫌われてる所かむしろそれとは正反対の_____好きだから、だなんて。
 先程までのもやもやが嘘みたいに消え、今度はドキドキと心臓が心地好く高鳴っていた。
「あっ....そっか私....」
 キャプテンの事が好きなんだ。
 だから、名前で呼ばれている秋さんと夏未さんに嫉妬していたんだ。その事を自覚すると、私の頬はかあああっと一気に熱を帯びていった。
 ちょっ!ちょっと待って!これってまた別の悩みが出来たんじゃないの!!?

「かっ風丸先輩!もう少し詳しくお願いします!!」

 私はとりあえず、風丸先輩から更に情報を聞き出そうとその後を追うのだった。


彼が私を名前で呼ばない理由


(なぁ風丸....その....音無と仲良さそうだけど、何かあったのか?)
(心配するな円堂。取り調べを受けていただけだ)
(なんだそれ?)
(えっと....悪い....でっでも最悪な結果にはならないだろうから大丈夫だ!)
(すげぇ怖くなって来たんだけど、お前何したんだ)



END

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