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□観覧車とジンクス
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※二期捏造



「普通、あの場面で私を選びますか?」
 音無はやれやれとあからさまに呆れを含んだ視線をこちらに向ける。どうせ俺の事を鈍感とでも思っているのだろう。数分前、ナニワランドの観覧車前を通りがかった途端、不意に音無が「キャプテン、せっかくですし、マネージャーの誰かと観覧車に乗りませんか?」と提案してきた。音無の言うマネージャーとは秋と夏未の二人の事で、恐らく自分は含まれてなかったのだろう。人の気も知らないで、先輩の恋の応援と称し、何かと俺と二人のどちらかをくっつけようとするのだ。俺と音無がふたりっきりで観覧車に乗っている今のこの状況は、彼女が頭に描いていたシナリオとは違うはずだ。
「音無は俺と観覧車に乗るの嫌だったか?」
 それを判っていながら、俺は敢えて何も判っていない鈍感な素振りを取った。鈍感なふりをした方が、申し訳なく思うものの、あの二人の好意をかわしやすいからだ。
「そういうわけじゃないですけど……もうっ、本当にキャプテンは鈍感ですねぇ」
 音無は納得がいかない様子で唇を尖らせる。まったく、よく言うぜ。自分だって俺の気持ちに全然気付いてないくせになぁ。音無の突然の申し出に戸惑いながらも、頬を仄かに赤く色付かせ、円堂君はどうする?と期待と不安が入り交じった表情でこちらをじっと窺う二人を避け、音無を選んだ時点で少しは察しないものだろうか。結構思い切った行動だと思ったんだが。観覧車という密室でふたりっきりという状況でもそれを意識する様子の無い音無に、俺は零れそうになった溜息を飲み込んだ。好きな子に相手にされる所か、他の女の子とくっつけようと企てられるのは中々にキツいものがある。

「そうだキャプテン、知ってますか?ナニワランドの観覧車にふたりっきりで乗った男女は将来結ばれるってジンクスがあるんですよ」
 そうなのか、と相槌を打ちつつ、音無が俺とあの二人を観覧車に乗らせたがった理由が判った。
「どうです?そんなジンクスがあるなら木野先輩か夏未さんと乗れば良かった〜って思いません?」
「いや、なおさら音無と乗れて良かったって思うぜ」
「えっ……それって……」

「おっ、もうそろそろ着くな」
 口から告いでてしまった失言を誤魔化すため、俺は何事も無かったかのように音無から視線を逸らした。しまった。今のは流石に直球過ぎたかもしれない。頬に熱が集まって行くのが判る。音無がどんな表情をしているのか確認したかったが、情けなくも自分が言い放った台詞を自覚すると急速に羞恥心に煽られ、まともに音無の顔が見れなくなってしまった。だってあんなの、ほとんど好きだって言っているようなものじゃないか。吹雪みたいに軽く流せれば良かったのだが、残念ながら、俺にそんなスキルは無い。微妙に気まずい沈黙が流れる中、不意に音無が口を開いた。

「キャプテン、ジンクスって案外信憑性があるかもしれませんね」

「えっ………?」

"ナニワランドの観覧車にふたりっきりで乗った男女は将来結ばれる"。先程、音無が語っていたジンクスの内容が脳裏を過った。俺は思わず聞き返し、背けていた視線を音無の方に向ける。


「だって私、キャプテンの事、気になり始めちゃいました」

視界に映り込んだ彼女の姿はまるで林檎のように顔を真っ赤に染め上げており、目尻を下げて、どうしましょうと困ったように笑みを浮かべた。

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